Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第577号(2024.08.20発行)

事務局だより

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所主任研究員◆藤井麻衣

◆国際環境計画(UNEP)がブルーカーボン報告書を初めて公表してから約15年が経ちました。その間、「ブルーカーボン」という言葉の知名度も、関係者の熱意も、国内外で年々高まっていることを肌で感じています。その最たる例が、1本目の記事で紹介された、古川氏が心血を注ぎ成功に導いた国際アマモ・ブルーカーボンワークショップでしょう。UNEP報告書において、炭素を取り込むブルーカーボン生態系と位置づけられたのは、マングローブ、干潟(塩性湿地)、海草藻場の3つでした。古川氏の記事からは、それらに海藻類をくわえたブルーカーボン生態系の保全・再生の最前線に立つ、漁業者や地元の人々の躍動が伝わってきます。
◆2本目には、堀氏より、日本が世界に先駆けて研究を進めてきた海藻類の炭素貯留に関するご寄稿をいただきました。日本の海藻藻場の炭素貯留効果を算定し、2024年4月に政府から国連へ報告を行ったという大変うれしい知らせです。この報告が認められれば世界で初めて海藻類が吸収源として認可されることになるとの言葉に、ブルーカーボンこそ日本が世界をリードする分野なのかと期待が膨らみます。全国各地に1,500種もある海草・海藻藻場のCO2貯留量を簡易に算定できるガイドブックの公開により、日本国内でのブルーカーボンの把握・算定の裾野がさらに広がりそうです。
◆3本目の記事では、博多湾で長年、海草の一種であるアマモ場の保全やそのためのデータ収集等をおこなっている(一社)ふくおかFUN大神氏による、取り組みの紹介です。持続可能な海のために多様な主体と連携する重要性を誰よりも認識され、活動に当たられています。このような現場での取り組みが、海の恵みをもたらすブルーカーボン生態系の保全を支えています。熱意と誠意ある言葉に、こちらも胸が熱くなります。
◆最後の安井氏の記事からは、海藻が古来より日本人に親しまれてきたことを実感するとともに、海藻の持つ食品やスキンケア商品としての魅力、地域の経済を盛り上げるポテンシャルを感じました。本号にご寄稿いただいた4本の記事は、海草・海藻藻場をはじめとするブルーカーボン生態系が日本人の生活と密接に結びついていること、そして気候変動の緩和や適応、生物多様性保全といったさまざまな恵みを生み出してくれることを示しています。ブルーカーボン生態系が多様な価値を持つことが国内外に浸透していき、人々が価値を守ることに重点を置くようになれば、ブルーカーボンがいつか世界を変える日が来るのかもしれません。日本の研究者や現場の人々の活躍は、地球規模課題が山積の中においても、私たちに明るい希望を与えてくれます。(主任 藤井麻衣)

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