Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第577号(2024.08.20発行)

海と人、人と人をつなぎ、豊かな自然を守り伝える

KEYWORDS アマモ場づくり/ダイバー/多様な主体連携
(一社)ふくおかFUN代表理事◆大神弘太朗

福岡市の博多湾は物流や人流の中心地であり、豊かな漁場を有する。
しかし、海底環境の悪化や環境依存によるアマモ場への影響も大きい。
(一社)ふくおかFUNはダイバーを中心に活動し、アマモ場の保全と再生に取り組む。
さらに、多様な主体との連携を通じて海洋環境の持続可能性を追求している。
博多湾の現状とアマモ場の重要性
人口160万人以上を有する福岡市。その福岡市に面する博多湾は、物流や人流の機能において、日本と世界各国を結ぶ重要な役割を担っています。東西に約20km、南北に約10km、平均水深10.8mという非常に浅く、閉鎖度の高い海域でありがながらも、湾内ではイカ、クルマエビ、ガザミ、マコガレイ、アナゴなどを獲ることのできる豊かな漁場が存在しています。しかしながら、海底環境の悪化や磯焼けなどによる生物多様性の喪失などの喫緊の課題を抱えている現状です。
閉鎖性海域特有の環境依存に伴い、夏は高水温・貧酸素、冬は低水温・貧栄養という問題も抱えており、海にとって重要な役割を担うアマモ場も大きな影響を受けています。
アマモ場は生物の生息場・産卵場として利用されるだけでなく、海中への酸素供給、透視度上昇による日光供給補助、砂地に根を張ることで砂の侵食を抑制、さらに海中の炭素(ブルーカーボン)を固定・貯留する役割も担う海の重要資源です。近年日本各地でアマモを含めた海草藻場づくりが行われています。
アマモと太陽

アマモと太陽

ふくおかFUNの取り組み
(一社)ふくおかFUNでは、博多湾においてダイバーによる水中の魅力発信、海を脅かす原因や課題の早期発見・解決を行っています。さまざまな活動を行なっていく中で、海の魅力と課題解決の双方をつなぐ重要な役割を担うのがアマモであると考え、団体発足当初より「アマモ場づくり」を行ってきました。
当団体の活動拠点である博多湾は、湾口・湾央・湾奥でそれぞれ環境が異なります。そのため、その違いもまた多様性として見ていくことが重要であると考えています。四季折々の博多湾各地に潜水し、アマモ場の分布・被度・生育環境条件などの情報を蓄積してきました。そこから見えてくるアマモ場づくりの未来像をもとに市民活動を設計しています。また、アマモ場を脅かす原因となっている海洋ごみの対処やアオサの大量発生対策も同時に行うことで、より効果的な藻場づくりを目指した活動を実施しています。特に博多湾における海洋ごみは河川からの流入が大半を占めており、一人ひとりが気付き考えていくことが大切です。
このように博多湾の海の生命を守るためにはアマモ場の再生や保護を社会全体で考える必要があると考え、行政・企業・教育機関・研究機関・漁業関係者など多様な主体と連携した活動を行っています。場所や場面に応じて取り組み手法や表現をデザインし、子どもたちを含む地域社会とともに課題解決に向けた取り組みを行っていくことで、それぞれが考える課題解決の在り方に光を当てることが、課題解決の発展につながっていくと考えています。博多湾全体を潜っていく中でさまざまな変化を目の当たりにしました。その中には数値やデータで表せず、博多湾の「今」を見続けることでしか判断できない事柄も存在します。現在では研究からかけ離れた感覚に近いものをいかに数値化し、社会に提唱していくかを研究者らと共に日々模索しています。今後は環境DNAと目視計測(水中映像)との比較によるより細かな水中生物の把握や日々の潜水にデータロガー(水温、水深、溶存酸素、塩分濃度)を導入し季節変動をより細かに計測していくこと、藻場の堆積物コア試料を採取し、有機炭素含有量の測定を実施するなどさまざまな方法を用いてデータの蓄積を行なっていく予定です。まだ途中段階にある海洋調査も多くありますが、データの蓄積のみに着目するのではなくその課題解決に向き合う情熱や誠実さを対話に反映させ、漁業関係者を含めた多くの主体と連携し、持続可能な海との関わりを生み出していきます。この関わりが将来の博多湾にとってとても大切なものであると信じ、活動を続けていきます。
ハナタツ

ハナタツ

多様な主体が連携する意義
現在、ネイチャーポジティブや30by30、カーボンニュートラルポート、博多湾保全計画など、海を取り巻く環境保全対策に向けてさまざまな追い風を感じる機会が増加しているように感じています。博多湾の港湾機能(経済価値)や陸域のインフラ(防災要素)等も重要視しながら、豊かな海洋環境との共存を考慮する必要があると考えています。そのためには、問題を問題視するだけでなく、折衷案を模索し、違う意見や考え方に深く向き合い、多様な主体が連携した課題解決へのスキームを構築していくことが重要です。個々による社会課題解決では限界があります。それぞれの価値や価値観を大切にした、それぞれが考える「より良い海」に向けて地域社会が、ともに連携して活動を行っていくことを目指しています。言葉では簡単に聞こえるかもしれませんが、一筋縄ではいきません。価値観を尊重することの意味を理解し、時に発信者として時に傾聴者として関わることが必要です。そのためのチーム作りを団体内でも日々行なっています。
2023年度には15回目となる「全国アマモサミット2023 in ふくおか」を開催しました。博多湾の玄関口でもある博多港国際ターミナルをメイン会場に、多くの市民で賑わう水族館(マリンワールド海の中道)や人工海浜(シーサイドももち海浜公園)をサテライト会場に開催し、(一社)ふくおかFUNは事務局として、私は実行委員長として実行委員会全体のイニシアチブを取りました。サミット期間中全国各地から4,700名(サテライト含め8万名)もの方にお越しいただき、アマモやアマモ場づくりへの社会の興味関心と今後の可能性を目の当たりにしました。この機会はあくまでスタートラインに立つためのきっかけに過ぎません。博多湾では現在多くの方が海と向き合い課題解決に向けた取り組みを行っています。しかしそれらの連動性をより高め、風通しの良い大きなコミュニティ作りをしていかなければ、本当の意味での解決には向かっていきません。
地域社会と海洋環境の持続可能性を向上させるため、ダイバーとして最前線で水中世界を捉え続け、博多湾の生態系の理解を深め、海洋管理の方策を提案し、地域の豊かな未来に向けて前向きな貢献を続けていきたいと考えています。(了)

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