Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第576号(2024.08.05発行)

事務局だより

瀬戸内千代

◆今号では、バイオミネラリゼーションと、サンゴ礁や藻場の再生についてご寄稿いただきました。いずれも大気中の二酸化炭素を減らし温暖化の緩和に寄与する、海洋での取り組みです。
◆バイオミネラリゼーションについては、著者の鈴木氏も所属する「バイオミネラリゼーション研究会」が、一般向けの「バイオミネラル展」を2024年春まで開催していました。その会場に、主要なバイオミネラルの一覧表がありました。私たち脊索動物は、歯や骨のためにリン酸カルシウムを体内で形成していますが、非常に幅広い分類群の生物が炭酸カルシウムを形成し、石灰岩の生成に貢献しています。カタツムリのように陸生もいますが、多くが海生です。例えば、殻が「星の砂」と呼ばれる有孔虫、天然スポンジの原料になる海綿動物、造礁サンゴなど刺胞動物、オウムガイ・シャコガイなど軟体動物、エビ・カニなど節足動物、海底の岩を覆うコケムシなど外肛動物、シャミセンガイなど腕足動物、ウニ・ヒトデなど棘皮動物、磯で見られるサンゴモなど石灰藻や外洋に浮遊している円石藻(ハプト藻の仲間)など多様な藻類などが「石灰化生物」と呼ばれています。真珠もアコヤガイのバイオミネラリゼーションの産物です。東京大学は、三崎臨海実験所の箕作佳吉初代所長が、真珠ブランド「ミキモト」創始者の御木本幸吉氏と世界初の養殖真珠の発明に携わった明治時代から、脈々とバイオミネラリゼーションの研究を進めています。鈴木氏の博士課程の指導教官であった長澤寛道氏(現・東京大学名誉教授)が本誌にご寄稿くださった2011年以降、バイオミネラリゼーションの研究は大きく進展し、海洋生物の仕組みを模倣して効率良く二酸化炭素を石灰岩に戻せる未来が現実味を増しています。
◆識名氏がご紹介くださったような努力でサンゴ礁が保全できれば、サンゴは共生藻類による光合成と骨格の形成によって、海草や海藻が茂る藻場と同様に、炭素を固定してくれます。武田氏がご紹介くださったJブルークレジットという自然保全を駆動する経済的な仕組みが普及し、人工ミネラリゼーションのような新技術も動き出し、沸騰化する地球が再び穏やかさを取り戻すことを祈りたいです。(瀬戸内千代)
※ 長澤寛道著「海洋生物は死んで殻を残す」本誌第271号(2011.11.20発行)
https://www.spf.org/opri/newsletter/271_3.html

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