Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第572号(2024.06.05発行)

編集後記 

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長◆阪口秀

◆先日、駐日デンマーク王国大使館で開催されたデンマーク国王誕生日・建国記念日祝賀会にご招待頂いた。その席で、自国産のワインが振舞われ驚いた。デンマークと言えば酪農は有名であるが、その気候はワイン醸造には適していなかったはずである。しかし温暖化の波は、ワイン生産の北限をデンマークにまで押し上げていたのである。その夜は、グリーンランドを大切にされているデンマーク国王に敬意を表すために、グリーンランドのシンボルマークである紺地にシロクマが刺繍されているネクタイを着用して参加した。これは、2023年3月17日に日本人にグリーンランドをもっと知ってもらうために当財団にてご講演を賜った、イスボセセン・グリーンランド政府在北京事務所代表がつけられていたネクタイで、講演後に友情を祈念して氏の首から私の首に巻いて下さった大変貴重なものだ。
◆北極圏に位置するグリーンランドでは、氷河の融解が急速に進行するなど温暖化の影響が非常に深刻なのである。この問題に対して、デンマークとの縁が深い北海道大学の杉山先生率いる低温科学研究所の研究者が現地で継続的に観測を行い、その科学的な分析結果をもとに、先住民族の方々と一緒に、現状を理解し、今後の生活様態の変化などについて考える場を作るなど、非常に素晴らしい国際協力が展開されている(本号1つ目の記事)。
◆他方、北極圏における国際協力は、本号2つ目の記事で述べられているように、2022年2月からのウクライナ侵攻以来、さまざまな国際的枠組みからロシアが締め出されている状況にある。しかし、ロシアは北極海に面する沿岸の長さ全体の50%以上を有する国で、ロシア抜きの国際協力はあり得ない。そんな状況の中でも中央北極海無規制公海漁業防止協定は、今現在もロシアを含めた協議が続けられている。また、3つ目の記事で触れられているように、北極圏にはグリーンランドのように多くの先住民族が暮らしているため、中央北極海無規制公海漁業防止協定では、先住民族の権利や利益も重要な課題である。さらに北極圏の海洋に限らず、国家管轄権外区域の海洋生物多様性に関する協定を協議する際にも、太平洋小島嶼開発途上国から、先住民族の権利や利益を守ることが強く主張されている。
◆一つの国でも異なる民族が異なる歴史と文化の中で暮らしていることが多い状況で、複数の国が沿岸を共有する海洋や北極圏において、権利や利益について統一したルールを決めることが時として困難を極めることは、ある意味自明のことである。そのような際に最も重要なことは、現場を知らない人だけで話し合うのではなく、現地に入って地道な活動を積み重ね、現地の人々との共通の理解を深め、さらにイスボセセン代表のように常日頃から世界各地で友情を育んでおくことである。その意味で、(公財)笹川平和財団からデンマーク国王へのお誕生日祝いとして、是非本号をお届けしたい。(所長 阪口秀)
※グリーンランドで進む資源開発ブームー環境保護を軸とした採掘とはー
https://www.spf.org/opri/news/20230317.html

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