Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第571号(2024.05.20発行)

水上ドローンがもたらす新たな大航海時代

KEYWORDS 無人化/カーボンニュートラル/水難救助
エバーブルーテクノロジーズ(株)代表取締役、日本水上ドローン協会代表理事◆野間恒毅

水上ドローンは、海洋業務や水難救助の現場で少子高齢化や労働力不足などの課題解決手段として注目され、帆船型や電動モーター型などがあり無人で航行可能である。
認知向上、技術開発と同時に法整備の進展が求められており、業界団体による啓発活動も行われている。
水上ドローン技術で自然と共生する持続可能な社会を目指している。
水上ドローンとは
少子高齢化や労働力不足に伴い、ドローンの活躍の場が広がっている。現在一般的になりつつあるのは飛行ドローンで、個人の空撮といった楽しみからスタートしたものが、今では土木建築産業における検査、点検、調査や医薬品の空輸でも活用されている。また空にとどまらず昨今は危険な水中での活動を潜水士に代わって行う水中ドローンも注目されている。
一般的に水中、水上で活動する海洋無人機はUMV(Unmanned Marine Vehicle)と呼称し、そのうち水中はUUV(Unmanned Underwater Vehicle)、水上はUSV(Unmanned Surface Vehicle)に分けられる。USVは遠隔操作型のROSV(Remotely Operated Surface Vehicle)と自律型のASV(Autonomous Surface Vehicle)に分けることができる※1。ドローンはもともと飛行ドローンを指すものであったが、日本においては無人機を指す言葉の定義として広く使われるため、分かりやすく「水中ドローン」「水上ドローン」と呼んでいる。
水上ドローンは他のドローンと同じく、無人で遠隔、または自律的に航行できるメリットを生かしたカメラによる撮影、検査、点検、漁業、気象、海洋調査や研究、防犯、また、浮力を生かした大きく重い貨物の運搬など多岐にわたる。水上ドローンは通常の船舶を無人艇に改造したものと、無人艇専用に船体を作ったものがある。動力はモーターボートの改造であればエンジン(内燃機)をそのまま使うことが多いが、無人艇専用の船体の場合は制御がしやすい電動モーターを使った電動船が一般的である。
ただ動力を使った船舶の場合、燃料、電池のいずれにしても有限であり活動時間には限りがある。そのため海上で長期間活動する場合、昔ながらの帆をつかう帆船タイプが向いている。帆船型水上ドローンのさきがけであるセイルドローンは潜水艦のような形状に飛行機の翼のようなセイルを組み合わせ、数カ月間洋上で海洋調査活動ができるのが特徴である。
エバーブルーテクノロジーズ社ではセイルを採用した帆船型水上ドローン(写真1)、電動モーターを搭載した高機動型水上ドローン(写真2)を開発、販売している。帆船型水上ドローンは、2022年に山形県酒田市において20kmの連続航行や密漁船・不審船の見回り、海ごみの無人自動運搬、水中海洋資源の調査といった活用や、夜間の無人航行に成功している。
離島においてドローンを活用する場合、飛行ドローンは高速に移動できるメリットがありつつも、稼働時間・航続距離・ペイロード(積載量)が限られることから、軽くて貴重なものを運ぶのに適している。ジップライン社は道路網が貧弱なアフリカで輸血用血液を医療機関へ数十分以内に空輸で届けるサービスを展開し成功を収め※2、2023年から米国でもサービスを開始している。
一方で、重くてかさばる日用品、例えば飲料水や食料、おむつなどの紙製品運ぶのは水上ドローンが適している。特に災害で被災した離島や土砂災害でライフラインが分断された沿岸部へ大量の救援物資を届ける手段として、水上ドローンの活躍が期待されている。
風の力だけで進む帆船型や電動モーターを使った水上ドローンは温室効果ガスを排出しないことも、これまでの船舶と大きな違いである。陸上では自動車のEV化が進んでいるが、水上ではまだこれからである。モーダルシフトと共に水上ドローンの活用は持続可能な社会を達成するために必要不可欠である。
また少子高齢化と労働力不足、後継者不足の社会課題は水上でも同様で、むしろより深刻である。水上ドローンの活用は無人化、省人化できるためこれらの問題を解決する可能性を秘めている。
■写真1 帆船型水上ドローン「AST-232」

■写真1 帆船型水上ドローン「AST-232」

■写真2 ライフセイバーと並走航行する高機動型水上ドローン「AST-181」

■写真2 ライフセイバーと並走航行する高機動型水上ドローン「AST-181」

啓発と法整備
適用範囲が広い水上ドローンであるが、まだその認知と市場は広がっていない。一般の人にとっては海はレジャーの場という印象が強く、海水浴、釣り、サーフィンなどのイメージであろう。フェリーやボートなどを日常的に利用する人は限られている。また業務で海に携わる漁業、海事関係者にとっても、ドローンはまだまだ未知の世界。また法規制も追いついておらずその普及に影響している。現状の小型船舶検査や船舶免許制度、海上衝突予防法などは有人を前提にできているため、無人艇を想定していない。そのため現在のところ水上ドローンは、現行法に合わせる必要があるのだが、そうすると実用性や商業性を確保するのが難しい。例えばせっかく省人化を実現する「無人艇」であっても、現在の法規制では有人による「見張り」をつける必要があり、意味がなくなってしまう。
このような技術開発と法規制の問題は飛行ドローンでも起きていたが、業界の理解と官庁、立法機関との調整が進み、現在はレベル4、つまり、ある一定の条件を満たせば目視外の飛行が認められるまで進んできている。
2023年9月、エバーブルーテクノロジーズ(株)は水上ドローンを開発・販売する他社と共に「日本水上ドローン協会」を設立した。当協会は、水上・海洋ドローンに関する認知拡大と市場理解の促進、水上・海洋ドローン産業の健全な発展と安全な利用のための啓発活動や技術共有を通じた新たな技術革新を目指している。また行政や関連団体との情報交換、水上ドローンに携わる人材育成、普及活動も行う。
水上ドローン開発者としての展望
産業革命以前の大航海時代、人類は帆船を使い自然の力だけで地球上のあらゆる場所へ行き、交易、文化交流を行い自然とともに豊かな生活を送っていた。しかし産業革命以降は化石燃料を使い、温室効果ガスを排出してきた結果、気候変動が起きている。われわれが目指したいのは最新のドローンテクノロジーを人類最古のモビリティである舟に適用することで、産業革命以前の豊かで持続可能な社会を実現することである。中世の絵画ではたくさんの美しい海、港街が描かれている。その海を彩るのは真っ白な帆をあげた帆船だ。われわれは当時の澄んだ海と空気を再びこの手に取り戻したいと考えている。これは決して無理な話ではない、なぜなら人類は大航海時代に実現していたからである。しかし文明を捨て昔に戻ろうというノスタルジーではない。最新のドローンテクノロジーとの融合で自然と共生する新たな未来を創り出せると信じている。(了)
※1 国土交通省海事局『AUVの安全運用ガイドライン』(2021年3月)より
※2 前田隆浩著「離島医療のこれから」本紙第564号(2024.02.05発行)

https://www.spf.org/opri/newsletter/564_2.html

第571号(2024.05.20発行)のその他の記事

ページトップ