Ocean Newsletter
オーシャンニューズレター
第571号(2024.05.20発行)
PDF
2.2MB
魚の空腹度に応じたAIドローンによる自動給餌
~育てる漁業のための取り組み~
KEYWORDS
自動給餌/AI/ドローン
長崎大学工学部教授◆小林透
海洋養殖では魚がいつもの時間に決まった量の給餌をしても食べ残してしまう問題があるため自動給餌はなかなかうまくいかなかった。
長崎大学では、水中カメラの映像をAIに解析させて魚たちの空腹度を判定させる技術の開発に成功、現場までの餌の運搬をドローンに行わせることができれば、給餌作業をまったく人的稼働が掛からないスマートな形にすることができる。
長崎大学では、水中カメラの映像をAIに解析させて魚たちの空腹度を判定させる技術の開発に成功、現場までの餌の運搬をドローンに行わせることができれば、給餌作業をまったく人的稼働が掛からないスマートな形にすることができる。
自動給餌とは
読者のみなさんの中には、犬や猫などのペットをご自宅で飼われている方も多いのではないでしょうか。最近では、決まった時間に決まった量を給餌する製品が販売されており、飼い主の短期間の外出を可能にしています。では、海洋養殖の場合は、どうでしょうか?ご自宅で飼われているペットと同じで、決まった頻度で、決まった量を給餌すればよいでしょうか。実際の漁業者の方にお聞きしたところ、海洋養殖、特に沖合養殖においては、海水温や潮流などの影響により、餌を食べる時と食べない時があるとのことでした。従って、決まった量を給餌すると、食べ残しが発生し、餌が無駄になってしまいます。これを防止するために実際には、漁業者の方々が、船で現場に赴き、魚の様子をみながら給餌量を調整しています。しかし、これでは、毎回の給餌に人的稼働がかかり、昨今の燃料代の高騰も相まって、養殖産業の生産性を上げることがむずかしくなってしまいます。
そこで、われわれは、漁業者の方の代わりにAIが適切な量の給餌を行わせることができないかと考えました。生け簀に水中カメラを設置して、生け簀内の魚群の動きを観察します。そして、観察された魚群の動きを定量化することで、魚の空腹度をAIが判定するというものです。さらに、現場までの餌の運搬をドローンに行わせることができれば、給餌作業をまったく人的稼働が掛からないスマートな形にすることができるのではないかと考えました。水中カメラで魚群の動きを撮影することは、むずかしくありません。むずかしいのは、撮影された映像をどのように定量化し、どのようにAIに空腹度を判定させるかということです。われわれは、この問題を解決するために、車の自動運転にも利用されているOptical Flowという技術を用いて、魚群の動きを定量化することに成功しました。そして、それをSVM(Support Vector Machine)というAIに学習させることで、95%という高精度で、魚の空腹度を判定することに成功しました。さらに、魚の空腹度を空中のドローンに通知することで、生け簀の上空でホバリングするドローンからペレット状の餌を自動で投下するAIドローンを開発しました。
そこで、われわれは、漁業者の方の代わりにAIが適切な量の給餌を行わせることができないかと考えました。生け簀に水中カメラを設置して、生け簀内の魚群の動きを観察します。そして、観察された魚群の動きを定量化することで、魚の空腹度をAIが判定するというものです。さらに、現場までの餌の運搬をドローンに行わせることができれば、給餌作業をまったく人的稼働が掛からないスマートな形にすることができるのではないかと考えました。水中カメラで魚群の動きを撮影することは、むずかしくありません。むずかしいのは、撮影された映像をどのように定量化し、どのようにAIに空腹度を判定させるかということです。われわれは、この問題を解決するために、車の自動運転にも利用されているOptical Flowという技術を用いて、魚群の動きを定量化することに成功しました。そして、それをSVM(Support Vector Machine)というAIに学習させることで、95%という高精度で、魚の空腹度を判定することに成功しました。さらに、魚の空腹度を空中のドローンに通知することで、生け簀の上空でホバリングするドローンからペレット状の餌を自動で投下するAIドローンを開発しました。
AIドローンの仕組み
Optical Flowという技術は、映像から動いているものだけを抽出するという技術です。車の自動運転への適用例では、例えば、交差点に差し掛かった時に、左から飛び出してくる自転車だけを検知するというような場合に利用されます。今回は、生け簀内の魚に適用しました。図1(a)は、生け簀内の魚群の動きにOptical Flowを適用した例です。ご覧の通り、動いている魚の部分だけ、その方向と動く量を表すベクトルが表示されています。今回は、そのすべてのベクトルを一つのダーツの的のような形の上に集約することにしました。そうすることで、魚群全体の動きを一つの的の形で表現することができます。この的の形が、バラの花びらに似ていることから、われわれは、Rose Mapと呼んでいます。魚群の活性度が高い(空腹時)、低い(満腹時)場合のRose Mapで表現した例を図1(b)に示します。一見して、魚群の活性度が見て取れます。
次は、AIの話です。今回は、SVM(Support Vector Mchine)というAIを使いました。SVMは、入力されたデータのクラス分けを行うというAIです。つまり、今回は、生け簀内の映像からRose Mapを生成し、そのRose MapをSVMに入力することで、空腹なのか、満腹なのかを判定させようというものです。正確な判定をさせるためには、人間の子どもを教育するのと同じで、SVMを事前に学習させる必要があります。具体的には、生け簀内の映像をベテランの漁業者に見てもらい、空腹か満腹かの正解データを与えてもらいます。SVMには、その際の映像(実際には、Rose Map化したもの)と正解データをセットにして、学習させます。このように学習を進めることで、SVMは、どのような映像(Rose Map)の時に、空腹、あるいは満腹であるのかが判定できるようになります。
今回、生け簀側に水中カメラからの映像をRose Map化し、SVMで空腹度を判定するAIシステムを構築しました。そして、そのAIシステムと生け簀上空をホバリングするドローンとをWiFi通信で接続して、AIシステムが空腹と判定したら、ドローンに搭載された給餌機から自動で餌を投下するAIドローンを開発しました(図2)。
次は、AIの話です。今回は、SVM(Support Vector Mchine)というAIを使いました。SVMは、入力されたデータのクラス分けを行うというAIです。つまり、今回は、生け簀内の映像からRose Mapを生成し、そのRose MapをSVMに入力することで、空腹なのか、満腹なのかを判定させようというものです。正確な判定をさせるためには、人間の子どもを教育するのと同じで、SVMを事前に学習させる必要があります。具体的には、生け簀内の映像をベテランの漁業者に見てもらい、空腹か満腹かの正解データを与えてもらいます。SVMには、その際の映像(実際には、Rose Map化したもの)と正解データをセットにして、学習させます。このように学習を進めることで、SVMは、どのような映像(Rose Map)の時に、空腹、あるいは満腹であるのかが判定できるようになります。
今回、生け簀側に水中カメラからの映像をRose Map化し、SVMで空腹度を判定するAIシステムを構築しました。そして、そのAIシステムと生け簀上空をホバリングするドローンとをWiFi通信で接続して、AIシステムが空腹と判定したら、ドローンに搭載された給餌機から自動で餌を投下するAIドローンを開発しました(図2)。

■図1 Optical FlowによるRose Mapの作成 (筆者作成)

■図2 AIドローン (筆者作成)
わくわくする水産養殖に向けて
水産業においても、高齢化は深刻です。若い人にとっては、水産養殖というと、とても厳しい仕事というイメージがあるのではないでしょうか。われわれは、これを「わくわくする」ものに変えたいと思っています。今回は、固定型の水中カメラを利用しましたが、これを、水中ドローンに置き換えます。その水中ドローンは、魚群を自律的に追尾して、的確な映像を取得します。そして、この水中ドローンに空腹度判定AI機能を実装し、空中のドローンと連携して自動給餌を行います。両ドローンに必要なエネルギーは、すべて太陽光や風力といった再生可能エネルギーを活用します。
近い将来、複数のドローンが漁港を飛び立ち、水中ドローンと連携して、自律的に餌を投下して戻ってくる、そんな情景をイメージするだけで、わくわくしませんか。そんな未来に向けて、われわれの今後の成果にご期待ください。(了)
近い将来、複数のドローンが漁港を飛び立ち、水中ドローンと連携して、自律的に餌を投下して戻ってくる、そんな情景をイメージするだけで、わくわくしませんか。そんな未来に向けて、われわれの今後の成果にご期待ください。(了)
第571号(2024.05.20発行)のその他の記事
- 海中ドローンによるブルーカーボン調査 長崎大学副学長、海洋未来イノベーション機構教授◆山本郁夫
- 魚の空腹度に応じたAIドローンによる自動給餌 ~育てる漁業のための取り組み~ 長崎大学工学部教授◆小林透
- 水上ドローンがもたらす新たな大航海時代 エバーブルーテクノロジーズ(株)代表取締役、日本水上ドローン協会代表理事◆野間恒毅
- 事務局だより 瀬戸内千代