Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第570号(2024.05.07発行)

編集後記 

(公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長◆阪口秀

◆2024年1月1日に能登半島でマグニチュード7.6の大きな地震が発生し、240名を超える方が亡くなり、数多くの方々の自宅や職場、各種インフラに大きな被害をもたらす大災害となっている。被災者の皆様に謹んでお見舞いを申し上げる。
◆本号では、地震の専門家の3つの異なる視点から、この能登半島地震についての考察を頂いた。まず1つ目の記事の宍倉氏は、構造地質学的視点から長年にわたる能登半島の地震と地形についての研究により、この地域に近い将来大きな地震による海岸隆起が発生することを懸念されていた。また、2つ目の記事の高原氏は、地震による斜面崩壊や液状化被害について触れ、宅地盛土や埋土など、人工的な土地造成が被害を拡大させたことについて指摘された。そして3つ目の記事の長尾氏は、古今東西、多くの地域で必要とされながら現段階では不可能と結論付けられている地震予知の可能性について触れ、電離圏電子密度の異常が地震発生と大きな相関を有することを示された。
◆非常に興味深いこれら3つの記事を読み終えたとき、私は思わず「なんや、そこまで分かってたんかい!」と、脊髄反射的に関西弁で呟いてしまった。もちろんこれは、浅学菲才の自分への嘆きであるが、海底が隆起し漁港が干上がり、多くの漁業者が困り果てる姿や、地滑りや液状化により倒壊または傾く家屋を映し出しては、未曽有の大災害でどうしたら良いか誰も分からない、という論調を垂れ流しにするメディアに対する嘆きでもあった。能登半島では過去6千年に3回も大きな地震と隆起があったことも、安易な土地造成は地震時に大災害をもたらすことも、地震計測からではなく別の物理量から地震の前兆現象を検知できることも、既に分かっていたことなのである。
◆宍倉氏は、そもそも能登半島そのものが100万年以上にわたって地震による隆起でできた大地であり、そこで暮らしていることを忘れないようにと結論付けている。もちろん忘れているわけではないのだろうが、政治家の政治生命の寿命と比較すると、6千年に3回または4回という周期は長すぎるので、対応するかどうかの判断は難しいところだろう。そして、その対応を逡巡している間に大きな災害が発生すると、関係者は「想定外であった」という言葉で責任を逃れようとし、一般人は「関係者が想定外という言葉を使うのはおかしい」と非難する。本来は、本号の3人がきちんとした根拠をもとに示唆しているように、関係者はしかるべき根拠をもとに「ここまでを想定している」と先に明確にしておけば良いだけのことである。その上で、了承し、生活基盤とするかどうかを個人の判断に任せるべきである。専門家にしか分からない話にするのではなく、学者や行政はしっかりと責任をもって、国民に分かり易い情報を伝えるべきである。もちろん、われわれ海洋政策研究所もその一翼を担うべく、分かり易い情報を読者の皆様に提供できるよう努める所存である。(所長阪口秀)

第570号(2024.05.07発行)のその他の記事

ページトップ