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オーシャンニューズレター

第570号(2024.05.07発行)

能登半島を襲った2つの地震と来る地震への課題

KEYWORDS 能登半島地震/盛土/振動継続時間
金沢工業大学工学部准教授◆高原利幸

土木工学的な観点からすると、令和6年能登半島地震では震源断層付近では自然斜面の崩壊が多発しているものの、多くの道路盛土の崩壊が救援活動に大きな支障をきたしたほか、震源から120km離れた金沢市などでも宅地盛土や埋土の崩壊、液状化による被害が見られた。
この度の地震と2007年能登半島地震の比較からその要因を考え、これからも発生するであろう地震に対する土木工学的な備えについて考えたい。
令和6年能登半島地震
最初に、この度の地震で犠牲になられた方々の御冥福をお祈りするとともに、被災者の皆様の生活基盤が早急に整えられることを心より祈念いたします。
2007年の地震では死者は1名であったが、今回は死者244人(令和6年3月26日現在、関連死15名)という大きな災害となり、その多くは家屋の倒壊等による直接死とされている。2016年の熊本地震では死者273人のうち218人が災害関連死であったことを考えると、今後の災害関連死をいかに防ぐのかということも、今なお喫緊の課題となっている。
筆者は2000年に金沢大学に助手として赴任し、その後2018年から金沢工業大学にお世話になり、2007年能登半島地震と令和6年能登半島地震の2つの地震を体験することとなった。
土木工学的な観点からすると、震源断層付近では自然斜面の崩壊が多発しているものの、多くの道路盛土の崩壊が救援活動に大きな支障を来したといえる。また、震源から120km離れた金沢市、160km離れた加賀市でも宅地盛土や埋土の崩壊、液状化による被害が見られた。本稿では、2007年地震と2024年地震の比較からその要因を考え、これからも発生するであろう地震に対する土木工学的な備えについて考えたい。
計測震度と最大加速度
表1に2007年と2024年の地震における(国研)防災科学研究所の地震観測網における計測震度と最大加速度の比較を示す。計測震度とは震度階を求めるために計算される数値で、3.5以上4.5未満で震度4、4.5以上5.0未満で震度5弱、5.0以上5.5未満で震度5強となる。表中の観測点は北から順に並べてあり、大谷から輪島が能登半島の北端の震源断層沿いにあり、震度6強に相当する計測震度を示している。最大加速度も1,000gal(重力加速度は980gal)を越え、地面の方向が変わるような感覚になるほどの揺れであったことがわかる。2011年の東北地方太平洋沖地震では、宮城県の築館で計測新震度6.6、最大加速度2,933galを示し、福島県の白河で計測震度6.1、最大加速度1,425galと今回の能登と同程度の加速度および計測震度であった。表1によると、富来で2,830galと非常に大きな加速度を示しているが、これは地盤が関係しており、火山岩分布地域のため地盤が硬かったことによると考えられている。硬いと揺れないと思われがちであるが、硬い地盤では変位は小さく被害も小さいが、減衰が小さく、加速度は大きく出る傾向がある。2007年と2024年を比較すると、計測震度、最大加速度ともに今回の地震が大きく、震度階が概ね「1」上がっており、一義的には振動の大きさが被害の大きさにつながったといえるだろう。
■表1 2007年および2024年の能登半島の地震と2011年東北地方太平洋沖地震の震度比較

■表1 2007年および2024年の能登半島の地震と2011年東北地方太平洋沖地震の震度比較

液状化被害からみた課題
ここで注目したいのは震度5弱から5強を示したかほく市七塚、および金沢市のデータである。液状化被害は震度4では発生がほとんど確認されず、震度5弱で特に液状化しやすい場所で発生し、震度5強から顕著な被害が出るとされている。七塚は震度5強で液状化被害の大きかった内灘町および金沢市粟崎町と同じ砂州上にあるが、気象庁の推定震度分布では7km南の内灘町では震度5弱であったにも関わらず大きな被害となった(写真1)。2011年東北地方太平洋沖地震の際に埋立地が大きな液状化被害を受けた千葉県の浦安市や千葉市美浜区の観測点でも震度5強を示しているものの計測震度は5.1とぎりぎり5強で、最大加速度も200galを下回っており、2007年には被害のなかった七塚の最大加速度とほとんど変わらない。これは、振動の継続時間が大きく影響していると言われており、2011年の地震も100秒以上揺れが続いたことで、小さな加速度でも液状化が発生したと考えられている。2024年の地震では60秒程度の強い揺れが続いており、揺れの時間が短い活断層型としては珍しい地震であったといえる。
現状の国道の橋を作るための基準「道路橋示方書」の液状化判定ではこの継続時間は考慮されておらず、千葉県の液状化を予測できないことが分っている。千葉県では独自にこの継続時間効果を考慮できる設計基準を取り入れている。くしくも2024年の能登半島地震ではこの継続時間の長さを改めて考える必要性を提示したといえる。100km以上離れた震度5弱の金沢で発生した宅地盛土の被害(写真2)、160km離れた加賀市での棚田を砂で埋めて整備されたぶどう園での被害はいずれも、この継続時間の長さから、盛土と地山の境目に溜まっていたと思われる水による液状化(に近い)現象により、摩擦力を失った盛土部分が地山の傾斜に沿って崩壊したものと考えられる。
内灘町の液状化被害の深刻である西荒屋地区も埋め立て造成地であることが分っており、金沢市粟崎地区も図1に示すように旧河岸段丘を潰した斜面で、旧斜面に沿うように側方流動が発生し、生じた地割れによって家屋に甚大な被害を与えている。金沢市の宅地も含め1970年前後の高度経済成長期の造成で、盛土自体の劣化や排水機能の低下も関係しているかもしれない。能登地方は人口密度が低く、宅地盛土はほとんどなかったために大きな被害は確認されなかったが、この金沢以南の盛土、埋土での被害は、多くの造成地を抱える太平洋側ではより深刻な事態につながる可能性があることを示唆している。
写真1 内灘町西荒屋の液状化被害(2024年1月15日撮影)

写真1 内灘町西荒屋の液状化被害(2024年1月15日撮影)

写真2 金沢市田上新町の盛土の崩壊(2024年1月2日撮影)

写真2 金沢市田上新町の盛土の崩壊(2024年1月2日撮影)

■図1 金沢市粟崎地区の1961-1969年航空写真(国土地理院・空中写真閲覧サービスより)と液状化被害の発生箇所の合成図

■図1 金沢市粟崎地区の1961-1969年航空写真(国土地理院・空中写真閲覧サービスより)と液状化被害の発生箇所の合成図

災害対応力への課題
ライフラインの復旧の遅れも今回の特徴であろう。上水道のみならず下水道の復旧の遅れは3月26日現在も続いており、地中管路の復旧の難しさをあらわにした。昨今、景観のために各種インフラの地中埋設も提唱されているが、液状化の被害については十分な検討が必要であろう。また、公共事業として下水網事業が推進されてきたが、少し前の簡易浄化槽であれば個別復旧も可能であり、改めて災害対応力を含めたまちづくりが求められると感じている。(了)

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