Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第569号(2024.04.22発行)

事務局だより

瀬戸内千代

◆今号は日本近海の海流や資源にまつわる3題のご寄稿をいただきました。ミニチュア大洋とも呼ばれる日本海に関する荒巻氏の記事は、2018年の記事※1の続報でした。前回は、「日本海をつぶさにモニタリングすることで、将来的に地球規模で起こる海洋環境の変化を、DVDの倍速再生のように観察できる可能性がある」と書かれています。あれから約6年が経ち、動画の再生速度の変更が普及し、倍速再生はさらにイメージしやすい表現になりました。今回は、「地球温暖化に伴う深層循環の弱化を直接観測から世界で初めて明らかにした」とあります。地球規模で深層循環が停滞する未来が、ついに現実味を帯びてきました。
◆産業革命以降、急増中の二酸化炭素は、わずか200年程度で海洋の温暖化と酸性化を招き、人間を含む生態系の存続を脅かしています。日本近海は、海洋酸性化についても天然の実験場を提供しています。それが、式根島のCO2シープです。二酸化炭素が湧き出すその海底は、酸性化が進んだ海の姿を私たちに見せてくれています※2。
◆今号で末永氏が藻場造成の取り組みをご紹介くださった瀬戸内海もまた、閉鎖性海域であるために実験場のような役割を果たしています。例えば、人間活動に由来する栄養塩類の増減の影響が現れやすいことから、排水規制に特別措置を設けて、窒素・りん等の流入量を微調整する新しい試みが始まっています※3。また、河川から流れ込むプラスチックごみの量や、その削減努力の結果を把握しやすいため、「瀬戸内オーシャンズX」プロジェクト※4の舞台にもなっています。
◆全体を知るために部分を追究するという意味では、温暖化と酸性化の影響がいち早く現れている北極海の研究も重要です。日本は現在、砕氷機能を持つ初の北極域研究船「みらいⅡ」を建造中で、国境を越えた協力によって海の異変を解明しようとしています。竹内氏のご寄稿を読んで、平和は努力して構築すべきものと感じました。2030年までの「国連海洋科学の10年」は、そろそろ折り返し地点ですが、その大前提が「平和」であることは言うまでもありません。(瀬戸内千代)
※1荒巻能史「日本海底層の無酸素化の懸念 ─ 地球温暖化との関係」第427号(2018.05.20)
https://www.spf.org/opri/newsletter/427_1.html
※2 和田茂樹「自然の海洋酸性化海域を利用した海洋生態系の将来予測」第545号(2023.04.20)
https://www.spf.org/opri/newsletter/545_3.html
※3 岡田光正「豊かな瀬戸内海に向けた新たな制度について」第506号(2021.09.05)
https://www.spf.org/opri/newsletter/506_1.html
※4 https://setouchi-oceansx.jp/

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