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オーシャンニューズレター

第554号(2023.09.05発行)

海洋安全保障プラットフォームの構築

KEYWORDS レアアース生産技術開発/海洋の見える化/CCS
内閣府SIP「海洋安全保障プラットフォームの構築」プログラムディレクター◆石井正一

内閣府のSIP第3期「海洋安全保障プラットフォームの構築」(2023~2027年度)では、SIP第2期までの成果を発展させ、安全保障上重要な海洋の保全や利活用を進めることを目的としている。
研究開発の成果を社会実装するとともに、海洋の各種データを収集し、資源の確保、気候変動への対応などを推進するプラットフォームの構築に取り組んでいる。
 
SIP第3期における海洋の課題
資源の乏しいわが国が、自国の排他的経済水域(EEZ)内に存在する海洋鉱物資源の効率的な調査手法と産出技術を開発し、国際情勢に応じていつでも供給可能な体制を構築することは、国の安全保障としては、極めて重要な取り組みである。
内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期では、南鳥島周辺のEEZ内の深海に、レアアース泥の濃集帯が存在し、特に世界的に中国南部等に偏在する重レアアース類を多く含むことを立証した。レアアース概略資源量調査では、南鳥島海域のレアアース濃集帯の分布を明らかにし、水深約6,000m のレアアース泥の生産技術に目処をつけるとともに、海洋鉱物資源の調査技術においても、世界初の成果を幾つも生み出した。開発した海洋環境の観測機器は、深海から浅海域までの海洋広域モニタリングシステムとして、多くの海洋産業分野での利活用が期待されている。2023年の4月に決定された内閣府の第4期海洋基本計画でも、このような視点から国の重要な海洋課題として明記され、取り組みが一層強化されることになった。
このような背景を受けて、内閣府の第3期SIPプログラム※1では、2023(令和5)年4月より5カ年計画で14課題がスタートし、このうち海洋課題としては、安全保障上重要な海洋の保全や利活用を進める「海洋安全保障プラットフォームの構築」※2と定められた。当課題は、Society 5.0における将来像としての新たな海洋環境広域モニタリングシステムの技術開発やEEZ内の海洋鉱物資源の利活用の促進、新たな大規模CO2回収・貯留技術(CCS)の基礎研究などで、特定国に依存しない新たな資源供給網の整備と2050年カーボンニュートラル実現に貢献したいとする目標を設定し、研究開発を開始している。
海洋安全保障プラットフォームの構築
当課題は以下に示す4件をテーマとした、具体的な社会実装を目指した5年計画となっている。特に、南鳥島海域でのレアアースの採鉱試験と近隣海域に存在する巨大で地質的に安定している玄武岩海山を利用した大規模CCSの基礎調査研究をすることで、自律型無人探査機(AUV)や海洋観測器「江戸っ子」※3、深海ターミナル等を用いた海洋の広域データの取得を目指すモニタリングシステムを柱とするプラットフォーム構築を目指すこととしている。
(1)レアアース生産技術開発
南鳥島海域のレアアース資源については、鉱業法に基づく鉱区設定に資する調査を行い、更なる資源量の精緻化を図る。2025年の後半には、水深約6,000mからのレアアース泥の採鉱・揚泥試験を実施し、1日約70tのレアアース泥を地球深部探査船「ちきゅう」船上に揚泥、南鳥島に陸揚げして、脱水、減容化処理等を行い、日本本土に輸送後の第2次製錬を計画している。2027年度では、1日350tのレアアース泥の採鉱・揚泥と製錬・精製プロセス試験を予定し、わが国のレアアースの生産システムに目処をつける。特に最重要課題としているため、4つのサブテーマも紹介する。
①有望エリア資源量精査(探査):鉱区設定に向けた基礎データとして、有望エリアの追加コア採取・分析を行い、調査の精緻化を図り、最終的には鉱区設定に資する高精度三次元マッピングを完成させる。
②レアアース泥採鉱技術の改良(採鉱):水深約6,000mからのレアアース泥の採鉱システムを開発したが、現有の揚泥管は上部の3,000mであるため、早期に下部揚泥管3,000mの製作を完了させ、南鳥島海域での揚泥試験を行う。
③レアアース精錬技術の開発(製錬):陸上鉱山からの選鉱・製錬ではなく、新たな選鉱・製錬技術を開発し、最終製品に利用可能なレアアースの効率的な抽出・分離することで、産業化へのプロセス開発を検討する。
④生産システムの検討:産業化に向けた全体的な採鉱から最終レアアース製品までのサプライシステムを検討する。
(2)海洋環境影響評価システム開発
近年、海洋鉱物資源開発への環境影響評価が重要視されている現状に鑑み、SIP海洋課題では、第1期より海洋環境への取り組みを強化してきた。具体的には、世界標準規格ISOの4件の発行や国際海底機構(ISA)の定める海洋鉱物資源開発における環境ガイドラインに則り、水深約6,000mでのベースライン調査では、2年間もの長きにわたる海洋環境観測に世界で初めて成功した。このような成果をベースに、第3期では、海洋環境への最良の技術を導入した国際標準の調査やモニタリングの実施、並びに深海の環境影響評価システムの新たなる構築を目指す。また、海洋からの地球温暖化への影響を明らかにするため、海洋観測モニタリング精度の向上を図り、浅海から深海までの「海洋の見える化」を目指したデータの収集、整備を目指す。
(3)海洋ロボティクス調査技術開発
第2期SIPで開発されたAUV、深海ターミナル、「江戸っ子」などを高機能化し、新たな海洋広域モニタリングシステムにより、海洋鉱物資源開発や海底下への大規模CCSへのモニタリングシステム展開を目指すとともに、海洋構造物保守点検等に対応できるよう、小型・安価で平易に活用可能なAUV開発を目指す。
(4)海洋玄武岩層を活用した大規模CO2貯留・固定化技術に関する基礎調査研究
近年、海洋玄武岩層へCO2貯留を行うと、貯留したCO2が数年以内に鉱物化するというアイスランドなどでの研究が国際的脚光を浴びている。南鳥島海域にも海洋玄武岩からなる巨大な平頂海山「拓洋第5海山」が存在する。この巨大な平頂海山は日本列島とは異なり地震や活火山などの影響を受けない世界で最も安定した場所であり、大規模CCSには理想的な場所の一つである。この特色を活かすために、まずは海山の山体構造に係る基礎調査研究を行うことで、わが国が掲げる2050年ゼロエミッション達成に少しでも貢献できる研究開発を目指す。
この課題における産学官連携による社会実装への取り組みは、わが国の海洋産業の育成とともに、わが国の広大な海洋の安全保障にもつながる。今後、世界の海洋鉱物資源開発における海洋環境共存型スタイルとしてのプレゼンスを示していきたい。(了)
■図1 プログラム概要

■図1 プログラム概要

■図2 レアアース生産技術開発

■図2 レアアース生産技術開発

※1 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/overview.html
※2 SIP海洋安全保障プラットフォームの構築社会実装に向けた戦略及び研究開発計画(2023年3月16日) https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sip_3/keikaku/05_kaiyo.pdf
※3 小嶋大介著「産官学金連携事業による海洋探査機の開発」本誌第322号(2014.01.05) https://www.spf.org/opri/newsletter/322_3.html 参照

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