Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第524号(2022.06.05発行)

編集後記

帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

◆知床半島沖で観光船の沈没という痛ましい事故が起きた。遭難者に心から哀悼の意をささげる。事故を追ったニュースは、次から次へと観光船の運航会社が安全を軽視していた様子を伝えている。命を預かり安全運航をするために遵守すべきルールを破る行為には憤りしかない。この事故を機に、国交省は旅客船、とくに小型観光船の安全対策の強化に向けた全面的な見直しに着手した。COVID-19にともなう行動の規制が緩和され、これから海に多くの人々が集う夏がやってくる。安全に向けて準備し過ぎることはない。
◆IPCC第6次評価報告書によれば、CO2排出量を低く抑えないすべてのシナリオで、2050年頃までには、夏の北極に氷がなくなる可能性が予想されている。すなわち北極調査の国際プロジェクトが長期にわたり必要となる。榎本浩之国立極地研究所副所長、国際北極科学委員会Vice-presidentより北極評議会の活動や北極の科学研究の現状を教えていただいた。その中でも日本は多岐にわたり北極研究に貢献しているという。成果を期待したい。
◆北極海にも海洋プラスチックごみが蓄積しているという(本誌第497号)。海洋プラスチック汚染の拡大に呼応して、2014年に国連環境計画の意思決定機関として国連環境総会が始まった。この隔年開催の総会が汚染問題とどのように向き合ってきたかを(公財)笹川平和財団海洋政策研究所朱夢瑶研究員に寄稿していただいた。海洋プラスチック汚染の解決はひとつの国や地域だけでは出来ない。科学的データの蓄積、モニタリング手法の開発と同様に、それらの知見を基礎とし、プラスチック汚染に特化した国際条約の策定に向けた世界の協力が望まれている。
◆プラスチックによる海洋汚染は日本沿岸でも深刻である。市民によるビーチ清掃は30年以上前から全国で実施されるようになってきたが、漂着ごみをゼロにするには先が遠い。愛媛県佐田岬では、岩田功次(一社)E.Cオーシャンズ代表理事が、船でしか近づけないために大量のごみが溜まってしまったごみ浜に着目して調査をし、さらに危機感を募らせている。瀬戸内海沿岸では1,200カ所のごみ浜を発見し、そのごみの見積りは途方もない量だが、岩田氏は全部拾いたいという。2021海ごみゼロアワードAEPW賞の受賞をお祝い申し上げるとともに、子どもたちに美しい海を残したいという活動を応援したい。(窪川かおる)

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