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オーシャンニュースレター

第524号(2022.06.05発行)

ごみ浜に挑む

[KEYWORDS]ごみ浜/漂着ごみ/マイクロプラスチック
(一社)E.Cオーシャンズ代表理事、2021海ごみゼロアワードAEPW賞受賞◆岩田功次

美しいと言われる瀬戸内海の浜に大量のプラスチックごみが漂着し、何十年も放置されている。
そんなごみ浜が愛媛県だけで500以上もある。ほとんどの場所は陸から見えないため存在を知られていないが、これを放置するとプラスチックごみはマイクロプラスチックとなって海の生物に影響を与えてしまう。
そんな海ごみの問題に挑み、危機感を広く訴えたい。

見えていない海ごみの存在

愛媛県南西部にある佐田岬半島は日本で一番長い半島で、眼下に青く澄んだ海が広がり、斜面にはみかんの段々畑、山の尾根沿いには風力発電の風車が立ち並ぶ、風光明媚な場所である。ところが、その佐田岬半島に大量の漂着ごみで埋め尽くされた浜がいくつもある。私は佐田岬半島の付け根にある八幡浜市出身で、30年以上前から地元の仲間たちとビーチ清掃を行っていた。2016年、人生を変える出来事があった。ある人から「ごみ浜」の存在を聞いて訪れたところ、道路から見えず、人が足を踏み入れることもないその浜は、発泡スチロールやペットボトルなどのごみが何十年も放置されて大量に積み重なっていた。目の前の光景に愕然とした。自分が今までやってきたことは何だったのか。
あのひどい状況を見て動かずにはおられなかった。ごみ浜はほかにもたくさんあるはずだと、船を借りて、船でしか行けない海岸や無人島を調べて回り、305カ所のごみ浜を見つけた。衛星写真を確認して、ごみが溜まりそうな場所に当たりを付けて現場に入ると、予測していたよりも多くのごみ浜が見つかった。

漂着ごみはほとんどが国内のもの

瀬戸内海のごみは、99.9%は日本のものだ。外国からのごみはほとんどない。発泡スチロールごみは、愛媛の養殖関係のものが最多だ。その他に、広島、兵庫、岡山の養殖業者から来ているものもある。これらのごみの多くは、長い間海の中をぐるぐる回ってボロボロになっている。ペットボトルはキャップの色からようやくメーカーが推測できる程度だ。大量の漂着ごみがあるところには、マイクロプラスチックも大量にある。
大量のごみは、一度では回収できず、継続して拾い続けなければならないため、2018年には(一社)E.Cオーシャンズ※を設立した。私たちの活動は、年数回開催するごみ拾いイベントを除いて、ボランティアの参加を断っている。多くの場所は陸から行くことができず、船で危険な岩礁をすり抜けながらようやくたどり着けるような浜だ。普通の船は、岩にぶつけてしまうと沈んでしまうため、ぶつけても沈まないような特殊な塗装を船にしている。また、ごみにはハチやマムシが潜んでいることもある。そのため、船の定員や保険の問題もあり、通常活動は会員のみで行っている。
設立後には企業からの支援や自治体からの補助金を受けるようになったが、ごみ拾いをやればやるほど赤字となる。そこで、国や行政を巻き込んだ仕組み作りが必要だと考えている。これまで見つけたごみ浜の管理者は、大抵は都道府県であるが、ごみの処分は市町村に依頼しなければならない。市町村は「県が所轄する場所なのに、なぜ市町村がやらなければならないのか」となりがちだった。佐田岬の伊方町と隣接する八幡浜市は、これまでの私たちの5年間の活動を知っていたので、予算を出し、(一社)E.Cオーシャンズがごみ拾いを業務委託として行うことができた。一方で、大量のごみ浜があるにもかかわらず、ごみの受け入れを断る市町村もある。そこで、愛媛県に掛け合ったところ、県がごみの受け入れを請け合い、ごみ浜で1.7tのプラスチックごみを拾うことができた。

大量の発泡スチロールゴミでごみ浜となった横島 人目に触れにくい佐田岬二名津漁港周辺

危機感を共有し日本中に仲間を増やしたい

2021年に愛媛県から委託されて現場調査を行ったところ、563カ所のごみ浜を見つけた。ごみ浜は愛媛県だけの問題ではない。福岡から岡山、兵庫、大阪、和歌山まで調べているが、約1,200カ所のごみ浜を見つけている。(一社)E.Cオーシャンズや仲間たちで、そのうち50カ所のごみを拾った。おそらく日本で最も多くのごみを拾っていると思う。もう30t以上のごみを拾っているはずだが、それでも1,200カ所のうちのたった50カ所である。
海岸にどの程度のごみが漂着・散乱しているかを表す方法として、「海岸の長さ10m当たり、20ℓのごみ袋で何袋分のごみがあるか」を目視で推測している。ごみが全くない状態がランク0で、軽トラック1台分(約128袋、容量2,560ℓ)をランク10として表すと、調査したごみ浜には、ランク1,000以上の場所が数カ所あった。ランク30,000以上となった御所が浜で5年間ごみを拾い続けて、ようやく2021年にはランク15,000となった。
でも、全部のごみを拾いたい。ごみを未来に残すわけにはいかないと思っている。(一社)E.Cオーシャンズの活動は愛媛の南西側から始まったのだが、日本中にいろいろ仲間を増やしているところだ。市町村が国から予算を得るよう働きかけ、市町村が危機感を持ってごみ浜に取り組むよう、いろいろ企業を巻き込みながら活動している。すでに変化が現われている部分もある。例えば広島の牡蠣養殖用のパイプは生分解性のものになってきた。

次世代を育てることが使命

いろいろな人に、この瀬戸内海のごみの状況を伝えて、共鳴してもらい、協力しながらごみを拾えるような社会を作りたい。私たちが調べたことは、多くの人はまだ知らないのだが、2021年の愛媛県における現場調査の結果が広く公になれば、状況は変わるのではないかと思っている。実際、岡山の山陽新聞でごみが堆積している場所を記事に載せてもらったところ、地元のNPOなどがごみ拾いを始めた。あまりに数が多すぎるのと、船でしか行けないところが多いことにより、岡山県から「ごみ浜の情報がほしい」と連絡があった。少しずつだが動き始めている。
私は、ごみ浜の存在に気付くのがちょっと遅すぎたと思っている。今発見している場所だけでも、現在の体制では、20年以上かかると予測している。そのため、この活動を続けてくれる次の人たちを一生懸命育てることが私の使命だ。0.003mmのマイクロプラスチックを拾える網を自作し、特許もとった。今は試作品だが、大量生産を検討中だ。これを世界中で売ることができたら、次の世代もごみを拾っていく予算にできると思っている。子どもたちに美しい海を残すことができるよう、そんな未来のための道を作るよう、まだまだ頑張らなければと思っている。(了)

  1. 一般社団法人E.Cオーシャンズ https://ec-oceans.com/

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