Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第524号(2022.06.05発行)

海洋プラスチック問題に関するUNEAの議論の展開

[KEYWORDS]プラスチック汚染/環境問題/国際条約
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所研究員◆朱 夢瑶

プラスチック汚染はすでに地球規模の環境問題となっている。この汚染問題に対してさまざまな国際会議などを通じた議論や取り組みが加速している。
これら国際会議のうち国連環境総会(UNEA)における海洋プラスチック問題に関する取り組みの変遷を示し、プラスチック汚染の収束に向けての動きを考察する。

UNEA-5までのプラスチック問題への道筋と歴史的な決議の採択

われわれにとってプラスチック製品は必需品となる一方、不適切な処理によって深刻な環境問題を世界中に引き起こしている。そのため、プラスチック問題に対してさまざまな国際的な議論や取り組みが加速している。国連環境総会(UNEA)はそのような国際会議のひとつである。
UNEAは、国連環境計画(UNEP)の意思決定機関であり、原則として2年に1回開催される国際会議である。これまでに開催されたUNEAのタイムラインは表1のとおりであり、毎回のUNEAにおいて、プラスチック問題が議論されてきた。
第1回のUNEA(UNEA-1)は2014年6月に開催され、「海洋プラスチックごみとマイクロプラスチック」という決議が採択された。プラスチックの不適切な管理および処分に由来するリスクの認識、海洋ごみネットワークを通じた情報交換の促進、海洋プラスチックごみの発生源の特定、海洋中のマイクロプラスチック密度を最小にするための対策、そしてプラスチックごみによる生物多様性、海洋生態系、人の健康への影響などについての調査と知見を求めていた。また、この決議を受けて、2016年3月に、UNEPが海洋プラスチックごみの脅威に関する報告書『Marine plastic debris and microplastics』を発表した。
第2回のUNEA(UNEA-2)は2016年5月に開催され、引き続き「海洋プラスチックごみとマイクロプラスチック」に関する決議が採択された。同決議は、海洋プラスチックのモニタリング手法の標準化に向けた取り組みを求めるとともに、マイクロプラスチックに関する一層の調査の必要性、マイクロビーズなどの利用の廃止・削減の促進、プラスチックごみの除去・処分のための環境上健全なシステムと手法開発の必要性、微小なプラスチック粒子や堆肥化可能なポリマーを含む製品ライフサイクルを通じた環境影響への配慮の促進などを明記している。
2017年12月に第3回のUNEA(UNEA-3)が開催され、引き続き同名の決議が採択され、海洋プラスチックごみやマイクロプラスチックに対処するための障害およびオプションを精査することを求めた。UNEA-3で特に注目されるのは、海洋プラスチック問題を検討する公開特別専門家会合(AHEG)の招集を決定したことである。AHEGによって、途上国を含む海洋ごみ、およびマイクロプラスチックに対処するためのすべての障壁を精査することや、行動や革新的な手法などを含む各国、各地域、および国際的な対応のオプションの範囲を特定すること、そして異なる対応オプションの環境的、社会的そして経済的なコストと便益を明らかにすることなどの調査の実施を求めている。AHEGはこれまで2018年に第1回および第2回、2019年11月に第3回、続いて2020年11月に第4回が開催され、これらの検討成果はすべてUNEAにおいて報告された。
2019年3月に第4回のUNEA(UNEA-4)が開催され、「海洋プラスチックごみとマイクロプラスチック」の決議に加えて、「使い捨てプラスチック汚染対策」という決議が採択された。前者は日本、ノルウェー、スリランカにより共同提案され、既存の機関を活用した新たな科学技術助言メカニズムなどによる科学的基盤の強化、多様な主体による行動強化のためのプラットフォームの新設、そして第5回のUNEAに向けたAHEGによる国際的な取り組みの進捗レビューおよび対策オプションの分析などを決定した。
後者の「使い捨てプラスチック汚染対策」の決議では、安価で環境にやさしい使い捨てプラスチックの代替製品の開発の促進、プラスチックのライフサイクルを考慮した最も効率的な設計、生産、使用および管理の促進、そして使い捨てプラスチックの廃棄に対処するための法律や国際協定の必要性、廃棄物管理の改善などが議論された。
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、第5回のUNEA(UNEA-5)は2段階のアプローチで開催することとなった。その第1回会合は2021年2月にオンラインで実施され、主に緊急を要する手続き上の決定が行われ、一定の交渉を必要とする実質的な議題は2022年2月の第2回会合(UNEA-5.2)で議論された。UNEA-5.2では、「プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際約束に向けて」という条約作成に向けた歴史的な決議が採択され、生産から、設計、処分に至るまで、プラスチックのライフサイクル全体を網羅的に考慮すべきことが明記された。また、2024年までにプラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際約束を作成するため、2022年に政府間交渉委員会(INC)の設立を求めた。

プラスチック汚染の収束に向けて

環境中に流出したプラスチックごみの多くが最終的にたどり着く場所が海洋である。先行研究によれば、海洋に浮遊するプラスチックはマイクロプラスチックになったり、深海に沈むなどして、99%が表層から失われる。現状としては、すでに環境中に放出されたプラスチックの回収はなかなか難しい。したがって、プラスチック問題を解決するためには、これ以上のプラスチックごみが増えないように、その削減やリサイクルなどの発展性がある研究や政策にも注目すべきである。
世界中の国々では海洋プラスチック問題に対して各国の実情をもとにしてさまざまな独自の政策や取り組みがなされている。また、プラスチックに関連する既存の国際条約、たとえば、バーゼル条約やロンドン条約、ボン条約、生物多様性条約そしてMARPOL条約などを挙げることができるが、これらの条約はプラスチック汚染問題に着目したものではない。そのため、地球規模であるプラスチック汚染問題に対して、世界各国が協力してプラスチック汚染に特化した国際条約の策定が必要だと考えられる。さっそく2022年5月30日~6月1日には、INCの設立準備のための公開作業部会(OEWG)がUNEPの呼びかけで開催される。今回のUNEA-5.2の法的拘束力のある条約作成に向けた歴史的な決議を受けて、この条約策定の一層の加速が期待できる。
一方、国際条約を作る際に、海洋プラスチックに関する科学的な知見はその基礎となる。これまでのUNEAの議論にもあるように、現状では海洋プラスチックの分布、発生源、流出経路、環境や生態系そして人類への影響などに関する科学的データはまだ不足している。また、海洋プラスチック(特にマイクロプラスチック)のモニタリング手法が世界中で統一されていないことも事実であり、各国の国際的なモニタリング手法の開発と統一化に向けた基盤づくりが今後の課題となる。近年では日本がリードし、環境省では海洋表層に漂流するマイクロプラスチックのモニタリング手法調和の取り組みを積極的に進めている。ますます深刻になっているプラスチック問題には、全世界の力を合わせて解決していくことが望まれる。(了)

第524号(2022.06.05発行)のその他の記事

  • 海氷の変化から見る北極海のこれから 国立極地研究所副所長、国際北極科学委員会(IASC)Vice-president◆榎本浩之
  • 海洋プラスチック問題に関するUNEAの議論の展開 (公財)笹川平和財団海洋政策研究所研究員◆朱 夢瑶
  • ごみ浜に挑む (一社)E.Cオーシャンズ代表理事、2021海ごみゼロアワードAEPW賞受賞◆岩田功次
  • 編集後記 帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

ページトップ