Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第512号(2021.12.05発行)

編集後記

帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

♦(公財)笹川平和財団海洋政策研究所主催のシンポジウム「国際法から見た『無人運航船』─モノか、フネか、それとも…?」が11月12日に開催された。視聴数はのべ2,200以上となった。本誌でも無人および自律運航船についての寄稿(424454479号)が続く。無人運航船の本質的な問題は、フネかモノかで法規制が異なることである。基調講演では国際法に基づいた解釈と展望を上智大学の兼原敦子教授が示された。続いて坂元茂樹本誌共同編集代表がモデレーターとなり、様々な立場からの発言があった。船舶の定義、旗国の安全関連義務、公海上の種々の問題、国際法と国内法の整合性など、目前の喫緊の課題に、わが国として早急に意見を発出する必要があるとの議論がなされた。今後の科学技術の発展と法整備の間の歯車の噛み合わせに注目したい。
♦海上自衛隊幹部候補生学校長の八木浩二海将補よりシーマンシップとリーダーシップの滋養を重視する教育について教えていただいた。教育課程は様々あるが、いずれも重視されるのは専門知識の習得と船乗りにふさわしい資質や心がけの会得である。そして専門知識、教養、生活、組織力の養成や英会話など身に着けるべきことは実に多い。一方、海での訓練は地元の人々の協力があり交流も深い。江田島を第二の故郷とする卒業生の活躍を心から願う。
♦気候安全保障問題が注目されている。気候変動の影響が大きい太平洋島嶼地域が抱える問題について、笹川平和財団海洋政策研究所Fabrizio Bozzato 特任研究員にご寄稿いただいた。氏は本年9月に発行された『気候安全保障 地球温暖化と自由で開かれたインド太平洋』笹川平和財団編の執筆者の一人でもある。太平洋島嶼地域の気候脆弱性は5つに分けられ、その対応策の評価もされているが、さらに脆弱性が深刻化すれば、国際的組織犯罪やテロの温床となる可能性もある。これらのリスクを抑えるためには、太平洋島嶼国がそれに立ち向かうための援助が不可欠であるとBozzato氏は説く。
♦(国研)水産研究・教育機構水産資源研究所 社会・生態系システム部研究員の杉本あおい氏の冒頭の言葉「伝わらない科学、知らない市民」は印象的である。ご寄稿では、「科学コミュニケーション」について八重山地域のサンゴ礁保全研究を例に解説をいただいた。サンゴ礁の保全には、まず住民がサンゴ礁の価値を知り、保全の必要性を理解することが大事である。サンゴ礁の科学を複数のアートで表現して手応えを得たという。ご一読いただきたい。(窪川かおる)

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