Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第512号(2021.12.05発行)

海上自衛隊幹部候補生学校の教育と地域貢献

[KEYWORDS]人材教育/シーマンシップ/江田島
海上自衛隊幹部候補生学校長、海将補◆八木浩二

海上自衛隊幹部候補生学校の使命は、初級の幹部自衛官として必要となる基礎的知識および技能を学生に習得させることであり、シーマンシップとリーダーシップの涵養を重視した教育を行っている。
全ての幹部海上自衛官が、彼らにとって第二のふるさととも呼べる江田島において、専門知識の習得と船乗りにふさわしい資質、さらに国際性・語学力、変化に富む海に対応できる柔軟性などを身につける。

海上自衛隊幹部候補生学校とは

本校は、広島県江田島市の江田島湾(江田内)の北東側に沿う形で位置しています。海軍兵学校時代に建造された赤レンガの生徒館、大講堂、教育参考館などの貴重な建造物が現在も使用されており、学生は歴史の重みを感じつつ、海と海上自衛隊の基本について学んでいます。以下、本校の概要に加え、教育において重視しておりますシーマンシップとリーダーシップについて説明します。
本校の使命は、学生に幹部自衛官としての資質を養わせるとともに、初級の幹部自衛官として必要となる基礎的知識および技能を習得させることであり、学生の多くは卒業時に3等海尉に昇任します。卒業生は実習幹部として海上実習へと出港しますが、課程によっては卒業後、直ちに各種任務の現場へと赴く者もいます。年間約450名の卒業生が初級幹部として巣立っていきます。
教育課程は、学生の経歴によって複数に分かれています。最も学生数が多い課程は一般幹部候補生課程であり、防衛大学校卒業生を対象とする1課程と一般大学などの出身者を対象とする2課程のほか、一定期間部隊において勤務した者の中から選抜されるコースは部内課程と呼ばれています。1課程には留学生も含まれ、現在はタイ王国海軍と東ティモール民主共和国海軍からの留学生が学んでいます。その他の課程として、飛行幹部候補生課程、医科歯科看護科幹部候補生課程、幹部予定者課程等があります。教育期間は、1・2課程が約1年間と最も長く、最も短い医科歯科看護科課程では約2カ月と課程によって様々です。

シーマンシップとリーダーシップの涵養

遠泳

このように多様な課程が存在しますが、どの課程においても幹部海上自衛官としてのシーマンシップとリーダーシップの涵養を重視しています。シーマンシップには2つの側面があります。一つは、艦艇乗組員としての基本的知識・技能であり、海図が読めること、海事法規を理解していること、艦船の構造や気象海象の知識を有していることなどが含まれます。2つ目は、船乗りにふさわしい資質や心がけとでも言うべきものです。これには帝国海軍以来の伝統である諸事にわたりスマートであること、定刻の5分前には準備を完了させる5分前の精神、整理整頓、几帳面さなどのほかに、世界の海軍士官とわたり合える国際性・語学力、変化に富む海に対応できる柔軟性など幅広い要素が含まれます。
そして、これらの知識や資質を教室における講義に加え、日常生活全般を通じて身に付ける教育を行っています。例えば、食事の際のマナーや常に端正な服装を維持することは当然指導の対象です。また、朝の起床動作である「総員起こし」では、迅速に飛び起き、無駄のないスマートさで寝具をたたみ、迅速に衣服を着用し、数分以内に校庭に整列することが求められます。海や船に関する入口として、カッター(短艇)と呼ばれる約9mの舟艇の取り扱いや漕艇訓練を江田内において行います。訓練は、ロープの各種の結び方や取り扱い方法の習得からはじまります。漕艇の際は、艇長、艇指揮のもと12名の漕ぎ手のリズムに少しでも不揃いがあると十分な艇速を出すことはできません。江田内における漕艇を通じ、自らが全力を出し、かつ周囲と力を合わせる団結の重要性を体得します。国際性・語学力の向上の観点では、日本人教官のほか、米海軍の少佐も教官として在校しており、米海軍史や英会話などを担当しています。
次に、リーダーシップです。リーダーシップには様々な考え方があると思いますが、当校では「指揮」と「統率」の双方の能力を進展させることを重視しています。ここで指揮とは、法令等に基づき部下に正しく命令することであり、そのために、各種の規則や艦船において使用する号令について学び、その後、実習を通じ指揮能力を段階的に高める教育を行っています。また、指揮能力に加え、自らの人格・能力をもって部下を感化し、チームの能力を最大限に発揮し任務遂行に導くという統率力の向上も重視しています。
リーダーシップについても、講義による理論に加え、各種の競技会や行事などにおいて、学生はリーダーの役割を与えられ、それらの機会を通じて徐々に、リーダーとして必要な資質を進展させることが期待されています。例えば、8マイル(約15km)の遠泳訓練においては、グループごとにリーダーが先頭を泳ぎます。リーダーの者は、コースや速力などについて判断するとともに、水泳が不得意な者を励まし、グループ全員が完泳するという目標達成のために自らがやるべきことを考え実践します。また、カッターに帆を張り、江田島の西側に位置する入鹿海岸まで片道約10マイルの帆走巡航訓練を行います。この際、航海長役の者はリーダーとして、海図を調べ、航海計画を立案し、天候が悪化した際の代案計画も立案します。さらに、複数のカッターがグループを組んで航海する際の他艇を指揮する方法についても研究を重ねます。これらの訓練は本校における訓練のほんの一例ですが、学生がリーダーシップの理論と実践を通じ、失敗と成功を重ねながら段階的にリーダーとしての資質を身に付けることを企図しています。

江田島への感謝

海上自衛隊の仕事の場は海であり、本校における教育訓練も短艇訓練、遠泳訓練などをはじめとして、まずは海を知ることから始まります。そして、それらの教育訓練の多くを江田島とその周辺海域において実施しています。また、江田島の地元の多くの方々には、週末に学生が外出した際、宿泊・休養ができる下宿を提供していただいています。このような江田島は、全ての幹部海上自衛官にとって、第二のふるさととも呼べる土地であり、誰もが江田島に懐かしさと心からの感謝の気持ちを抱いています。なお、本校では、日頃お世話になる江田島への小さな恩返しとして、江田内を挟んで本校の対岸にある軍艦「利根」記念館周辺の海岸清掃や帆走巡航訓練において使用する入鹿海岸の清掃を実施しています。
江田島へは広島県の宇品港や呉港から高速艇やフェリーを利用し20分程度でアクセスが可能です。ぜひ江田島の海上自衛隊を訪問していただき、古鷹山を背後に控えた白砂青松の敷地において、海軍兵学校から続く歴史や当校の雰囲気を感じていただければ幸いです。(了)

短艇競技
帆走巡航
  1. 詳しくは、海上自衛隊第1術科学校のホームページ(https://www.mod.go.jp/msdf/onemss/)をご確認ください。

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