Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第509号(2021.10.20発行)

編集後記

日本海洋政策学会会長◆坂元茂樹

本誌第483号で段烽軍氏と山口健介氏によって紹介されているように、中国は、2020年の南シナ海におけるメタンハイドレートの洋上産出試験で、2月17日から3月18日までの30日の連続生産を実施し、86.14万立方メートルのガス生産量と2.87万立方メートルの日平均生産量の二つの世界記録を打ち立てた。メタンハイドレートの開発・生産について、中国の開発能力は急速に伸び、世界のトップランナーとなっている。日本は、この分野ですでに中国に追い抜かれてる。
◆山崎哲生大阪府立大学名誉教授からは、次世代の鉱物資源として期待されている海底熱水鉱床についても同様の商業化実現の遅れが生じていることが指摘されている。有望な海底熱水鉱床の発見が続いているのに商業化が遅れている原因には、品質と採算コストによって開発利用の優先順位が定まる「資源ピラミッド」の問題があるという。日本が発見した海底熱水鉱床はこのピラミッドの下位のレベルであり、この現状を打破するのは海底熱水鉱床鉱石の「海底選別」という技術革新だとされる。ぜひご一読を。
◆五條堀孝アブドラ国王科学技術大学栄誉教授と長﨑慶三高知大学理工学部門教授からは、現代生命科学の最先端のオミクス解析・ビッグデータAI解析を使った赤潮発生の予察技術についてご寄稿いただいた。「獲る漁業」から「育てる漁業」へという養殖産業の発展にとって、有害プラクトンの迅速診断技術の開発は焦眉の課題である。微生物学データによる赤潮終息予察技術として開発された共存細菌叢に基づく判定技術や藻体の代謝産物に基づく判定技術、さらには漁場環境診断カルテによる新たな環境評価手法の詳細については、本誌をご一読ください。
◆TBTIジャパン研究ネットワークコーディネーターを務める李銀姫東海大学海洋学部准教授からは、世界の漁獲量の約半分を占め、世界の約3,000万人の漁業者の90%以上を雇用し、加工・流通の関連業種を含めると8,400万人を支えている小規模漁業についてご寄稿いただいた。海に関わるあらゆる経済活動を指すブルーエコノミーは、海洋の持続可能な発展を目指す方法として期待される一方、小規模漁業がその関連政策の中で周縁化されないかとの危惧が生じ、ブルージャスティスの考えが生まれているという。漁業の成長産業化をめざす漁業法の大改正が行われた日本にとっても、小規模漁業の持続性の確保は重要な課題である。(坂元茂樹)

第509号(2021.10.20発行)のその他の記事

ページトップ