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第502号(2021.7.5 発行)

大和ミュージアム所蔵資料のデジタル化と公開

[KEYWORDS]呉市/資料保存/デジタルアーカイブス
呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)学芸員◆濱名翔平

広島県呉市の大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)は呉の歴史と造船を中心とした科学技術を伝えることを目的として、2005年に開館した。
焼失や散逸を免れた日本海軍や呉市に関する資料を収集・保存している。
紙資料である所蔵資料(写真・図面・文献)のデジタル化を進めており、保存とインターネットによる公開について紹介する。

大和ミュージアムの経緯と概要

10 分の1スケール戦艦「大和」

瀬戸内海に面し広島県南西部に位置する呉市は、1889(明治22)年の呉鎮守府設置から終戦にかけて、日本海軍の軍港として発展しました。1903(明治36)年には、呉海軍工廠が設置され、数多くの艦船を建造、なかでも1941(昭和16)年に建造された戦艦「大和」は、戦前期の日本の技術力の到達点を示す艦船として特筆されます。
呉市海事歴史科学館、愛称:大和ミュージアムは、呉の歴史と造船を中心とした科学技術を伝えることを目的とした博物館です。1980(昭和55)年の広島県への県立博物館設立要望からスタートし、1996(平成8)年に呉市主体の博物館建設を表明、資料収集※1と建設計画が進められ、2005(平成17)年に開館しました※2。開館15周年を迎えた2019(令和元)年には累計来館者数1,400万人を達成しています。
館内は4 階で構成されており、1階の常設展示室では10分の1スケールで再現した戦艦「大和」の模型をはじめ、戦艦「金剛」のボイラーや零式艦上戦闘機などの大型資料、呉の歴史を伝える資料を展示しています。3階「船をつくる技術」では体験装置を通じて造船に関する科学技術を学ぶことができ、4階ライブラリーでは海事関係の図書やデジタル化した写真・図面等の資料を公開しています。
当館では日本海軍や呉市に関する資料を収集・保存しており、所蔵資料は23 万点に及びます。ここでは、所蔵資料のデジタル化についての取り組みを紹介します。

所蔵資料のデジタル化と公開

大和ミュージアム収蔵資料データベース(http://jmapps.ne.jp/yamatomuseum/ 館内閲覧端末で公開中の図面資料

当館の所蔵資料の中心は、写真や図面、文献資料といった紙資料です。資料保存の観点からみると、紙資料は経年劣化や褪色、取扱時の破損の恐れがあることから、公開には注意が必要です。一方、調査研究や展示などに資するため、公開の促進が求められます。こうした保存と公開を両立するため、資料をデジタル化し、ホームページや館内閲覧端末で利用できるよう取り組みを進めています。ここからは、写真資料、図面資料、文献資料の3種類について、資料の概要と公開状況をみていきます。
(1)写真・図面資料
当館が所蔵する写真・図面資料の大半は、福井静夫技術少佐が収集したコレクションで、その点数は写真約8万点、図面約1 万点におよびます。写真資料は、明治から昭和期にかけて海軍工廠や海軍関係者が撮影したものが中心となっています。ほとんどがプリント(紙焼き)されたもので、資料整理の過程で一点ごとにナンバリングし、スキャナーを用いたデジタル化を行っています。写真はプリント保存用フィルムをバインダーに挟み込んで保存し、デジタルデータを当館ホームページ上にある「収蔵資料データベース」で順次公開しています。2021(令和3)年4月現在で約1万9,000点が公開中です。
図面資料は、日本海軍艦船の設計に用いられたもので、絹やトレーシングペーパーに描かれた原図とその複製の青焼図面の二種類があります。福井技術少佐が収集した図面資料を中心に呉海軍工廠造機部につとめていた北木兼一氏が保存していた戦艦「大和」の原図などを加えて公開しています。図面資料は大きなもので数メートルに及ぶため、分割してデジタル化を行いました。当館ライブラリーの閲覧端末で約2,000 点を館内限定で公開しています。
(2)文献資料
当館では、写真・図面資料に加えて、団体の旧蔵資料である「史料調査会資料」や個人文書の「松本喜太郎資料」といった文献資料をライブラリーの閲覧端末で公開しています。史料調査会資料は、日本海軍に関する史料収集・調査・編纂を行った財団法人史料調査会が所蔵していた資料で、約300点を公開しています。日本海軍の軍令部で作成された資料を中心に、国際会議や軍縮会議など外交に関する資料や電探(レーダー)に関する技術資料、戦後の史実調査の資料など多岐にわたります。中でも軍令部に関する資料は、中国に関する情報を担当した第三部第六課の簿冊が含まれており、戦前期の情報活動や日中関係を見る上で重要です。松本喜太郎資料は、造船官の松本喜太郎技術大佐の個人文書で、約250点を公開しています。松本技術大佐は、1934(昭和9)年から1945(昭和20)年にかけて艦政本部で艦船の設計に従事し、「大和」型戦艦の基本計画にも携わりました。資料には基本計画時に作成されたノート「軍艦大和基本計画」などが含まれており、戦前の艦船設計を現代に伝える貴重な資料群といえるでしょう。

デジタル化の利点と今後の課題

おわりに所蔵資料をデジタル化する利点と今後の課題をみていきます。
デジタル化の利点の一つが利便性の向上です。デジタルデータは、拡大・縮小することで写真・図面の細部を閲覧することができます。また、写真の場合、撮影地・撮影年・艦船名などのデータを付与することにより高度な検索を行うことも可能です。膨大な写真・図面資料を中心とする当館の所蔵資料にアクセスするためには、こうした利便性の向上は欠かせません。今後は、より詳細なデータを付与していく作業が必要となります。
もう一つは、資料を保管する上で有効であることです。デジタル化は資料を撮影もしくはスキャンしてデータを作成します。資料のかわりにデータを閲覧してもらうことで、資料の破損・汚損といった危険を避けることができます。さらに、データは資料の現状を記録する役割を果たします。特に図面資料の大部分を占める青焼図面は、褪色する危険が高いため、デジタル化によって現状を記録することが必要不可欠です。所蔵資料の点数と比較すると、デジタル化された資料はごく一部です。今後も継続した作業をすすめることが課題となります。
ここまで当館の取り組みとして所蔵資料のデジタル化と公開について、写真・図面・文献資料を取り上げ紹介しました。日本海軍の資料は1945(昭和20)年の終戦時に大部分が焼却処分されたため、わずかしか残されていません。関係者によって収集・保存された当館の所蔵資料は、日本海軍の歴史を現代に伝える貴重な資料と言えるでしょう。こうした所蔵資料を保存・活用していくため、今後もデジタル化と公開に取り組んでいきたいと考えています。(了)

  1. ※1資料収集の過程で(一財)シップ・アンド・オーシャン財団(現(公財)笹川平和財団海洋政策研究所)造船資料センターの蔵書の提供を受けています。また開館までの資料収集については、広島大学名誉教授・仲渡道夫氏の「海事技術資料の重要性と収集保存」本誌58号をあわせてご参照ください。https://www.spf.org/opri/newsletter/58_2.html
  2. ※2小笠原臣也『戦艦「大和」の博物館』(芙蓉書房出版、2007年)
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