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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第502号(2021.7.5 発行)

ラムサール条約採択50年を迎えて

[KEYWORDS]賢明な利用/湿地の価値/CEPA
NPO法人ラムサール・ネットワーク日本理事◆堀 良一

1971年2月2日にイランのラムサールで採択されたラムサール条約は、環境保全のための国際条約の先駆けである。
まだ「持続可能性」という言葉が登場する前の時代のため「賢明な利用」という表現が使われている。
条約が対象とする湿地は、生物多様性保全にとって不可欠な場所にもかかわらず森林の3倍の速さで消失している。
湿地のもたらす恩恵を多くの人に理解してもらうことが重要である。

湿地保全の推進を目指して

特定非営利活動法人ラムサール・ネットワーク日本(通称・ラムネットJ)は、地域の草の根グループや世界のNGOと連携しながら、ラムサール条約に基づく考え方・方法により、すべての湿地の保全、再生、賢明な利用の実現に寄与することを目的として活動しています。
2021年は、ラムネットJの活動の基盤となるラムサール条約採択から50年の節目の年にあたります。本稿においては、さらなる湿地保全の推進にむけて、ラムサール条約の概要と内外における取り組みの現状と課題などについて紹介させていただきます。

ラムサール条約とは

有明海南東のラムサール条約湿地・荒尾干潟

ラムサール条約は、1971年2月2日、カスピ海南岸にあるイランのラムサールという町で開催された「湿地及び水鳥の保全のための国際会議」で採択されました。正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」といい、採択の地にちなんで「ラムサール条約」と呼ばれています。
「持続可能な利用」の理念の重要性を、時代に先駆けて「賢明な利用」(Wise Use)という言葉で発信してきたこの条約は、その後締結された自然環境に関わる多くの国際条約の先駆的役割を果たしてきました。採択当初は、水鳥の生息環境の保全を意識し、それが条約の名称にも反映されていますが、次第に、湿地生態系が生物多様性の保全のみならず、人間社会の福利にも重要であることが広く認識されるようになり、現在は「湿地に関する条約」(Convention on Wetland)という表現が国際的に定着しています。
湿地は、沿岸域の干潟や浅海域の埋立や干拓等のように、開発の対象として破壊の危機にさらされ続けてきました。『世界湿地概況2018』によれば、世界の湿地面積はデータが存在する1970年以降その35%が消失し、その消失は今も続いています。このことが水鳥の生息地と個体数の減少を生み、それを危惧した人々の耳目を集め、同条約誕生の契機となりました。

ラムサール条約における湿地保全

干潟で生きものたちを探す子どもたち 名護市大浦河口に広がるマングローブ林(沖縄県)

ラムサール条約では、水源から沿岸域までの水と陸の接する場所を含む多様な水辺を「湿地」(Wetland)と定義しています。沿岸域であれば、干潟・潟湖・岩礁・サンゴ礁・三角州・マングローブ林・低潮時の水深が6メートルを超えない浅海域など、日光と酸素が行き渡り、水中と陸上双方の生物多様性を育んでいる水辺環境は、すべて湿地として保全の対象になります。魚類やエビの養殖池や水田のような人工的な水域も湿地に含まれます。これらの湿地は、水辺の生物を育み、その生物の働きで水質を浄化する機能があります。また地球規模で渡りをする水鳥の渡来地にもなり、バードウォッチング、潮干狩り、エコ・ツーリズムなどのレクリエーションや、憩いの場を提供しており、その恩恵は計り知れません。
ラムサール条約の目的は、私たち人間も含めた生物に末永く恩恵を与えてくれるすべての湿地の保全と賢明な利用であり、その利用を全て禁止するものではありません。資源を絶やさず、将来世代も湿地の恩恵にあずかることができるように利用する、と言うのがラムサール条約の湿地の「賢明な利用」の理念です。

締約国会議と湿地保全の現状

ラムサール条約の締約国は、締約国会議が定めた基準に合致する国際的に重要な湿地を少なくとも一つ条約湿地として条約事務局が保管するリストに登録し、条約湿地を含むすべての湿地の保全と賢明な利用を目指さなければなりません。
採択から50年が経過した2021年4月現在、締約国は171カ国、条約湿地は2,418カ所、2億5,456万3,791ha(約254万5,638km2)になりました。国連加盟国193カ国の大半が締約国になり、条約湿地の面積は日本の国土面積の6倍よりも大きくなっています。
さらに、3 年毎に開催してきた締約国会議によって、破壊された湿地の再生、湿地の管理や賢明な利用に関するガイドラインの策定、CEPA(Communication/交流、Capacity building/能力育成、Education/教育、Participation/参加、Awareness/普及啓発)に関するプログラムの開発と推進、そして多国間環境協定との緊密な連携を通して、その内容を豊かにしてきました。

わが国の現状と課題

現在、わが国の条約湿地は52カ所、15万4,696haです。国土面積が本州とほぼ同じのイギリスでは条約湿地が175カ所、128万3,040haであるのと比べると、まだまだ不十分です。
それでも、生物多様性条約が採択された1992年の地球環境サミット(リオデジャネイロ)の翌年(1993年)に北海道の釧路市で開催されたラムサール条約第5回締約国会議を機に、湿地保全は、環境基本法に基づく環境基本計画や、生物多様性国家戦略など、国の施策に位置づけられるようになりました。伊勢湾・藤前干潟や、東京湾・三番瀬の埋立計画が中止され、それまでに見られなかった省庁を越えた取り組みも行われるようになりました。国交省管理の河川に関わる円山川下流域(兵庫)、渡良瀬遊水地(栃木ほか)および、農水省所管の水田を広く含む、蕪栗沼・周辺水田(宮城)が条約湿地に登録され、また第10回締約国会議(韓国、2008年)では、日韓両政府提案の「湿地としての水田の生物多様性向上」決議が採択されました。
他方で、この間、沖縄・泡瀬干潟の埋立や有明海・諫早湾干拓などが行われ、湿地を保全するための環境アセスメント制度も十分とは言えません。
また、湿地が持つ経済価値や二酸化炭素吸収機能などの価値については、まだ社会的理解が不十分です。湿地の価値を広く周知し、SDGs(持続可能な開発目標)の関連目標を推進しながら、湿地の賢明な利用を更に普及することがこれからの課題です。 ラムネットJではラムサール条約の国際的な到達点を踏まえ、今後も湿地の保全・再生・賢明な利用・CEPAの取り組みをさらに推進し、課題の解決をめざします。(了)

  1. ラムサール・ネットワーク日本のウェブサイト : http://www.ramnet-j.org/
  2. Ramsar Convention on Wetlands. (2018). Global Wetland Outlook: State of the World's Wetlands and their Services to People. Gland,
    Switzerland、Ramsar Convention Secretariat. (日本語訳:環境省自然環境局野生生物課、「世界湿地概況-世界の湿地の現状とその生態系サービス2018年」)2019年3月.
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