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オーシャンニューズレター

第49号(2002.08.20発行)

第49号(2002.08.20 発行)

洋上プラントによる廃棄物処理:呉からの提案

呉地域海洋懇話会座長◆戸田常一
呉市長◆小笠原臣也

『創造とふれあいの海洋・拠点都市』を将来像に掲げる広島県呉市。その呉市長のアドバイザリーボードである呉地域海洋懇話会の「移動式洋上プラントによる海洋性廃棄物処理」構想。瀬戸内海の海洋環境産業の振興を目指したプロジェクト提案である。

他地域に例のない呉地域海洋懇話会

平成8年度に、『創造とふれあいの海洋・拠点都市:呉』の地域活性化と産業振興の方向性を探るため、呉地域海洋懇話会は誕生した。数年の審議を経て「海洋環境産業」を基本概念として打ち出して活動を行ってきたが、以後、「ISO14000の認証取得と海洋環境都市宣言の発布」、「モデル事業(洋上プラントによる廃棄物処理、奥の内湾浄化と情島ミニ海洋牧場)の提案」、「海洋環境産業シンポジウムの開催」という3つの提言を行った。平成11年度にはフランス国立海洋研究所(IFREMER)からのゲストを迎えた国際シンポジウムを成功裡に終え、第一期の区切りを迎えた。

平成12年度からは懇話会委員外からも広く人材を集め、提案事業ごとのワークショップ体制で活動してきた。そのうちの一つである「洋上プラント・ワークショップ」では、これまでの検討内容をさらに発展させ、海洋性廃棄物処理のシステム構成、経済性の詳細検討、運用計画等の具体的な検討を行った※1

平成14(2002)年度は、呉市の市制100周年にあたることから記念事業として、日本沿岸域学会との共催による「海洋環境産業シンポジウム」、および関係機関の協力を得て「海洋環境産業見本市」を11月下旬に同時開催する方向で準備を進めている。

海洋環境産業とは何か?

ところで、海洋環境産業とは何であろうか? それは、1)海洋環境への負荷を低減させる技術・システム・サービスに係るすべての産業であり、2)環境にとって負荷の少ない技術・システム・サービスの海洋への導入に係るすべての産業である、といえる※2。1)の定義では、一般的に海洋調査観測や海域(水質・底質)浄化、河川・陸域での流入負荷軽減策などの従事する産業が該当し、当然、これらは海洋環境産業といえるだろう。他方、2)の定義のように、静脈物流における海上輸送の関連産業や、CO2フリーの風力発電を海上で展開する際の関連産業等も含まれると考えて良いのではなかろうか。廃棄物の処理を洋上で行う、これもまた当然に海洋環境産業だと考えるわけである。

カキ筏、FRP廃船処理・リサイクルを移動型洋上プラントで

■カキ筏処理の巡回移動例と処理施設のイメージ
海洋科学技術センター資料

カキ養殖筏は約4年のサイクルで更新されているが、廃棄物の処理は、それぞれの浜辺で野焼きされているのが実情である。今やその処理方法は煙の影響による苦情の増大などの問題が顕在化してきて、このまま放置するわけにはいかなくなってきている。他方、漁船はもとよりプレジャーボート等のFRP船の廃船放置問題は深刻の度合いを増していることは周知のとおりで、瀬戸内海ではとりわけ難題の一つとなっている。

そこで、これらを一定の海域ごとの集積場所に集めて、そこへ移動式の洋上プラントが所定の運航計画に基づいて収集してまわり、同プラントに搭載した再資源化とリサイクルシステムによって処理を行おう、というのが本提言の趣旨である。

幸い、竹材や針金、発泡スチロ-ルやFRPを破砕して炭化したり溶解したりする炉の技術が開発されつつあり、これらを洋上に一つの新しいシステムとして組み合わせて搭載しようというものである。処理プロセスの最後には、炭化、ガス化後に発電機を動かして電力が得られるほか、重油、FRP原材料などが再資源化されて出てくる。海上に投棄される園芸用ビニール廃棄物(海上ゴミの悩みの種)も回収して処理することもできる。つまり、浮遊ゴミ回収船による収集物の処理も、いずれ引き受けることができるであろう。

検討した洋上プラントの諸元は、全長60m、幅20m、深さ3mで、約3,000トンの平甲板角型バージ(イメージ図参照)で、移動係留先の海域浄化にも役に立つほか、瀬戸内海の海洋研究や海洋環境教育の場としての機能も提供できる。想定運航ルートは、呉港の広港区を基地として、この大きさのバージが曳航可能な水路とカキ養殖場等の配置状況を考慮して設定した(ルートマップ参照)。カキ筏の処理コストは約69円/kgとの試算結果となったが、これではまだ採算性はなかなか成り立たないとはいえ、実際にいつまでも現状を放置できないのは明らかである。

そこで呉地域海洋懇話会では近い将来を先取りして、この海洋性廃棄物の移動型洋上プラントによる処理システムを、関係自治体の広域共同事業として国等のバックアップも得ながら実現化させたいと考えている。

■図1呉地域海洋懇話会とワークショップ活動概要
■図1 呉地域海洋懇話会とワークショップ活動概要

沿岸域における広域公共事業に道は開けるか?

ところで、この構想、提言の実行にあたっては、廃棄物処理の事業が瀬戸内海の複数の市町にまたがる広域事業として取り組まれる必要がある。陸上では広域事務組合などを隣接市町村が組織して事業を行っている例があるが、海洋・沿岸域ではまだそうした例がないようである。

そこで、呉市と呉地域海洋懇話会では、毎年開かれる『瀬戸内海環境保全知事・市長会議』に本提言を投げかけることにした。今年は7月30日に和歌山市で開かれる。同会議は、13府県、5政令指定都市、8中核都市(人口30万人以上)が正式メンバーで、呉市は構成員ではないため、広島県他の協力を得て提案書を配布してもらう段取りとなった。

東京湾では積極的に海の再生と環境浄化に多くの知恵と資金、エネルギーが投入され干潟の再生などがプロジェクト化されようとしている時、瀬戸内海こそ半閉鎖海域のモデルとして、そして海洋環境産業の振興にふさわしい海域として、一層積極的な取り組みがなされるべきである。呉はそのイニシアチブの一翼を担って、本提言の実現化に向かって努力する所存なので、関係方面のご理解とご協力、ご支援と連携を切に希望したい。(了)

※1 :呉地域海洋懇話会、(社)海洋産業研究会、「海洋環境産業振興等調査報告書」、平成14年3月。(各年度毎に報告書がある。)

※2 :(財)産業研究所、(社)海洋産業研究会、「瀬戸内地域における海洋環境産業の創出等に関する調査研究報告書」、平成14年3月。

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