Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第478号(2020.7.5 発行)

未来の地球のために

[KEYWORDS]サステナビリティ/マイクロプラスチック/水族館
海遊館館長◆西田清徳

海遊館が開館30周年を迎える機会に、その30年の歩みを振り返り、社会から求められる水族館の役割の多様化を感じ、変化する世界の流れの中で、水族館が未来の地球のためにできることを考える。

30年の進化の歩み

前回、本誌に寄稿したのは2015年、タイトルは「進化を続ける水族館」(第347号、2015年1月20日)でした。「水族館は社会や環境の変化に適応しながら進化を続け、命の輝きと生物多様性を守ることの大切さを伝える使命のもとに、感性(センス・オブ・ワンダー)に訴える展示や情報を発信すべき」と、思いを込めて将来の水族館があるべき姿を述べました。それから5年、今年の7月20日に海遊館は開館30周年を迎えます。本稿では、その30年を振り返り、社会や環境の変わりゆく姿を見つめ直し、水族館が未来のためにできることを考えてみます。

海洋生物研究所以布利センター 2015年に開館した生きているミュージアム ニフレル

大阪港ウォーターフロント開発の中核として、1990年7月20日に生まれた海遊館は、まさに平成と共に進化の道を歩んできました。当時は世界最大級と呼ばれた「太平洋水槽」を悠々と泳ぐジンベエザメも、開館9日前に沖縄から40時間を超える世界初の長距離輸送で搬入されました。開館前は十数名の飼育スタッフが沖縄、高知、五島など各地に長期滞在して展示する魚類の収集に努め、海外の水族館で繁殖した生物を輸送する出張も多く、皆が落ち着いたのは秋になってからでした。 開館時の騒ぎが納まり、最初に私たちが着手したのは普及交流活動であり、海遊館を「博物館相当施設」として登録(1994年)することでした。サマースクールやおとまりスクールなど、子供たちの絶えざる好奇心に応え続け、学芸員の資格を取得する多くの学生たちの実習の場としても役割を果たしてきました。
次に取り組んだのは、貴重な野生生物の飼育に関わる調査研究活動でした。そのために、大阪だけでなく高知県土佐清水市に「海洋生物研究所以布利センター」を設立(1997年)、大学など専門機関との共同研究も含め、自然界での種の保全にも役立つ生理・生態など様々な分野の調査研究に積極的に取り組んできました。
一方、水族館を訪れるお客様が求められることも少しずつ変化、というより多様化してきました。「珍しい生き物を見たい」から「珍しい行動を見たい」、「見る」だけでなく「体感・体験したい」、最近では「癒されたい」、さらに「環境についてもっと知りたい」など。こうした要望に応えるため、2013年には「新体感エリア」を新設、環境問題が深刻化する「北極圏」「フォークランド諸島(マルビナス)」「モルジブ諸島」を対象に、お客様が生物と空間を共有できる展示を開始しました。
さらに、水族館や動物園という名称とイメージにとらわれず、お客様が体感できる空間を創造して、その感性に訴える展示を追及したのが、2015年に吹田の大阪万博跡地に開館した「ニフレル(生きているミュージアム)」で、博物館や美術館の手法も参考に新たな展示を提案しました。「感性に触れる」から命名された同施設も年末には5周年を迎えます。ここで、海遊館とニフレルだけでなく世界の流れに目を向けましょう。

世界の流れを感じて

海遊館やニフレルも含め(公社)日本動物園水族館協会に加盟する水族館は2019年末で57館。世界に視野を広げると、十数年前で500以上と言われましたが、現在はさらに増えているようです。これらの水族館が数年に一度集まる会議があります。「世界水族館会議」と呼ばれ、第1回は1960年にモナコで開催され25か国116名が参加、その後も参加する水族館は増え続け、第7回(2008年、中国の上海)には75か国から576名が参加しました。この第7回世界水族館会議で頻繁に耳にした言葉が「サステナビリティ(持続可能性)」でした。2012年に南アフリカのケープタウンで開催された第8回は「経験と変化を共有する世界の水族館」、2016年第9回カナダのバンクーバーでは「世界を変える力を育てる」がテーマとして議論されました。
また、2010年に名古屋で開催されたCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)前後から「生物多様性(Biodiversity)」という言葉は、日本社会にとっても重要なキーワードとなりました。私たち海遊館のメンバーも世界の流れを実感するため、海外施設とも頻繁に情報交換していますが、2017年に行ったモナコ水族館との意見交換会は印象的でした。丁重に迎えて下さったナディア・オウニス館長は、冒頭から「海のマイクロプラスチック汚染」の問題解決に世界中の水族館が連携すべきことを力説され、当館のメンバーは半ば圧倒されて帰国しました。その翌年、アクアマリンふくしまで開催された第10回世界水族館会議のテーマは「水の惑星 地球の未来について考える」で、文字通り海の汚染に関して水族館ができることが検討されました。
また、昨年は京都で「世界博物館会議(ICOM)」が開催され、この会議で最も耳にしたのが「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉です。17の目標のうち「14.海の豊かさを守ろう」、「15.陸の豊かさも守ろう」などはそのまま水族館の課題でもあると感じました。

未来のためにできること

海遊館の展示「未来の環境のためにできること」(海洋プラスチック問題について展示)

このような世界の流れを受けて、海遊館では2019年4月1日に「未来の環境のためにできること」という環境問題の啓発コーナーを開設、これは2013年にスタートした新体感エリアの展示目的をさらに具体化したもので、高知県の以布利センターで飼育していたジンベエザメが自然界で飲み込んでいたプラスチックの櫛が原因で急に死亡したことも紹介しています。
一方、2017年にモナコ水族館ナディア・オウニス館長の呼びかけで始まった世界の水族館が海洋汚染防止のために連携する活動(World aquariums against plastic pollution)は、2020年3月3日にモナコで進捗報告が行われ、世界41か国212施設が連携協力していることが明らかになりました※1 。その活動主旨や内容は、欧州委員会(EC)の使い捨てプラスチック削減キャンペーンサイト※2 でも紹介されています。
最後に、海遊館ではコロナウイルス感染拡大防止のための休館明けより、特別展示「海遊館ミュージアム」を開催して、開館以来30年の歴史を振り返り、お客様にも喜びを共有していただき、スタッフが考えた「海遊館の未来像」も展示しています。私たちの願いは、ご来館がお客様にとって「未来の地球のためにできること」を考えるきっかけになることなのです。(了)

  1. ※1日本からはアクアマリンふくしま、葛西臨海公園水族館、シーライフ名古屋、海遊館とニフレルが参加
  2. ※2「Are you #ReadyToChange? The Seductive Power of Single Use Plastics」 https://www.bereadytochange.eu/en/
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