Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第478号(2020.07.05発行)

BAN(Boat Assistance Network)事業発足から現在まで

[KEYWORDS]プレジャーボート/海難救助/会員制救助事業
(一財)日本海洋レジャー安全・振興協会救助事業部長◆上森達朗

海上でプレジャーボートやヨットがトラブルに見舞われた場合、陸上のクルマの故障とは異なり、人命に危険がともなうこともある。
BANは会員制プレジャーボート救助事業として1992年に誕生、当時はわずか315名だった会員数も、サービスエリア拡大とともに2020年2月末には10,741名へと増加している。
多くのボートオーナーの方々に長く楽しく安全にボートライフを楽しんでいただく環境づくりを目指している。

海上トラブルは危険がいっぱい

今や生活に欠かせないマイカー。ドライブ中に起こってしまったガス欠やパンクの際、頼りになるロードサービスを利用した方も多いと思います。プレジャーボートやヨットで釣りやセーリングを楽しんでいたら突然エンジンがストップ!車はトラブルにあっても路肩に車を寄せればとりあえず安全ですが、海の上ではそう簡単ではありません。風や潮の影響で船はどんどん流されるので、すぐに錨を入れて漂流を止めないと近くの船に衝突したり陸岸に接近したり浅瀬に乗り上げたり、さらに海象の急変により転覆して人命に危険が及ぶこともあり、車の故障とは大きく異なります。
普段から安全航行や整備に心がけていても、突然エンジンが止まったり、プロペラに浮遊ロープがからんで航行できなくなることがあります。このような事態の時にボートレスキュー業務が必要となります。本稿では、このような役割を担うために1992(平成4)年に発足した会員制プレジャーボート救助事業であるBAN(Boat Assistance Network)の取り組みを紹介します。

海の安全は自分で守る

多くの方々にプレジャーボートを親しんでいただいているのに伴い、事故も年々増加しています。1990年ごろには、小型船舶操縦士(ボートライセンス)取得者の増加とプレジャーボート・ヨットの保有者増などを受け、全海難事故の1/3がプレジャーボートで占められるようになりました。
海洋レジャーにおける安全の確保は、人命救助や応急的財産救助のような緊急事態を除き、基本的には自らの責任、自らの負担においてなされるべきものです。そのような状況の中、緊急性をあまり要しない軽微な事故に関しては、民間の救助業者に依頼して自己責任で対処していただく民間救助組織の必要性が叫ばれるようになったことを受け、BANが立ち上がりました。
(一社)日本海洋レジャー安全・振興協会(当時)では海上保安庁をはじめ関係省庁、マリーナ、海事事業者、水難救済会等官民一体のご協力により、東京湾と相模湾でスタートしました。その後1996(平成8)年には関西BAN(大阪湾・播磨灘・紀伊水道周辺海域)、2001(平成13)年に中部BAN(伊勢湾・三河湾・遠州灘・熊野灘エリア)、2007(平成19)年には飛び地となりますが、若狭湾でもサービスを開始し、2014(平成26)年4月には小豆島東方海域から来島海峡西口付近までサービスエリアとする瀬戸内BANを立ち上げ、2016(平成28)年4月には瀬戸内BANのサービスエリアを関門海峡まで拡大し、2018(平成30)年4月には、北部九州までサービスエリアを拡大しました。これにより、東京湾から御前崎、潮岬、瀬戸内海を経て博多沖合までBANサービスを受けられるようになりました。スタート当時はわずか315名だった会員数も、サービスエリア拡大とともに順調に増加し、2020(令和2)年2月末には10,741名の会員が在籍しており、ここまで活動エリアの広い民間救助組織は、BAN以外存在しません。

■ BANサービス海域図

BANの仕組み

BANは原則として会員制度のもとで実施される救助事業で、会員のボートやヨットが、機関故障や浮遊ロープの絡まり、ガス欠、バッテリー上がり等の軽微なトラブルで航行に障害を生じた場合における曳航や警戒伴走を行っています。これらの救助活動に要した費用は会員であれば原則無料となっています。
BANでは、いつ起こるかわからない会員のトラブルに対応するため24時間365日の当直体制を取っています。

■ BAN会員数と救助件数の推移
2020年度は2月末現在

ROC

会員艇にトラブルが発生した場合、会員が電話でROC(レスキューオペレーションセンター)へ連絡し、ROCは事故の内容、場所により、最適な救助業者であるRS(レスキューステーション)を選定し救助を依頼します。依頼を受けたRSは直ちに救助艇を出動させ現場に向かいます。おおむね1時間以内に救助船が現場到着することを目安にしていますが、救助要請発生日時や天候により、1時間以内に現場到着できない場合もあります。
実際に救助作業を行うRSは、マリーナやボート販売店等のマリン事業者をはじめ通船業者や遊漁船業者、漁協、海上タクシーなどで、2019(令和元)年9月末現在788カ所あり、救助要請に備えていただいています。

救助フロー

今後のBANについて

ボートオーナーが洋上でトラブルに遭遇し、オーナーまた同乗者が強い不安や恐怖を感じた場合、その後簡単に海洋レジャーの世界を去ってしまわれる方がおられます。せっかくボート免許取得、船の購入、マリーナ契約という手間のかかるプロセスを経てボートオーナーになっても、「安全・安心」のサポートが不十分であるならば、大切な財産が一瞬で消滅してしまいかねません。ボートを長く楽しむためのサポートとして、BANをご活用いただきたいと思っております。
また、BANは将来にわたり持続可能な組織作りが重要であると考え、会費等は合理的な金額設定としています。ボートオーナーにご理解いただきたいことは、より多くの方が入会することによりBANの事業が安定して継続することが可能となり、ひいては多くのボートオーナーの方々が、長く楽しく安全にボートライフを楽しんでいただける環境になることです。
(一財)日本海洋レジャー安全・振興協会は、今後も海洋レジャーを安全に快適に楽しんでいただけるよう積極的に取り組んで参ります。(了)

  1. BAN: 入会費10,000円、年会費は総トン数により、5トン未満は18,000円、5トン以上20トン未満は36,000円。 https://www.kairekyo.gr.jp/ban/

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