Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第457号(2019.8.20 発行)

広がる漁村女性のネットワーク~うみ・ひと・くらしフォーラムの活動とその後~

[KEYWORDS]水産女子/ネットワーク/後継者
東海大学海洋学部教授◆関 いずみ

これまでは、どちらかというと裏方として黙々と家業をこなし、地域のために働いてきた漁村女性たちが、起業活動を通して表舞台に立ち、より主体的に発言するようになってきた。
漁村女性の応援団「うみ・ひと・くらしフォーラム」は様々な活動を展開する水産女子をどんどん巻き込みながら、女性たちのネットワークを広げている。

漁村女性の起業活動

漁業・水産業や漁村をテーマに研究活動を行っている三人の仲間(国立研究開発法人水産研究・教育機構中央水産研究所 三木奈都子、同機構水産大学校 副島久実、筆者)は2003年に「うみ・ひと・くらしフォーラム」を立ち上げ、漁村女性たちの活動、とりわけ起業活動を応援するグループとして活動を続けてきた。
活動を始めた当時は、魚価が上がらず、「父さんや息子が、命がけで獲ってきた魚なのに、なんでこんなに安いんだろう」「世間では魚が減っているといわれているけれど、資源を十分活用しきれていないのでは」といった声が、漁村の女性たちからあがってきていた時期だ。それ以前から加工品製造を行ってきていた女性グループの活動が改めて見直され、さらにあちこちの浜で、地元の資源を使って自発的に起業する女性たちの活動が動き始めていた。やがて、2010年に六次産業化法「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」が成立し、六次産業化が、一次産業やその舞台となる地域の活性化を図る有効な手立てとして認識されるようになる。
そもそも漁業では、夫が獲ってきた魚を妻が鮮魚や加工品にして行商で販売する、ということはそこら中で行われてきたわけだから、六次産業化という考え方自体は目新しいものではなかった。しかし、六次産業化がクローズアップされることは、これまではどちらかというと漁業の主軸を担う男性を支えるために行われてきた活動が(もちろん、行商を生業として担う女性たちもたくさん存在したが、ここでは漁家の中での役割分担としての活動に特化したい)、自由な発想で地域に眠っていた資源を掘り起こし、自分たちの意思によって起業を始めるという、より主体的な活動となり、女性たちが表舞台へ登場する契機となった。

一歩進んだ活動へ

「土佐ひめいち」のキビナゴおから寿司
(シンポジウムの試食会より)

うみ・ひと・くらしフォーラムでは、さまざまな活動を行っているが、その一つにシンポジウムの開催がある。2005年に千葉県の協力を得て開催した第1回目のシンポジウムは毎年恒例となり、今年で15回目を迎える。開催場所も九州から東北までと範囲を広げてきた。このシンポジウムの最大の目的は、参加者同士の緩やかなネットワークが生まれる場となることだ。「やろうかどうしようか迷っていたけれど、シンポジウムで頑張って活動している人たちの話を聞き背中を押された気がした」と、シンポジウムが終わったときにそう感想を伝えてくれた女性は、その後仲間たちと本当に食堂を開店した。シンポジウムで知り合ったグループのところへ視察に行き、知恵や工夫を教わって自分たちの活動に生かしたグループもある。シンポジウム開催10年目の節目には、常連のように継続して参加していたメンバーたちが「ただ年に一度会うだけでなく、もっと何か形にしたい」と自発的にミーティングを開き、「オカッテ 二子玉川東急フードショー店」(東京都世田谷区)に4回の出店を果たした。オカッテイベントでは参加グループがそれぞれの加工品を持ち寄って販売するとともに、3~4日交替で銘々の商品をアレンジしたランチを提供した。その後、これらのグループは商品を提供しあい、お歳暮用のコラボセットを販売した。2017年からは、ジャパン・インターナショナル・シーフードショーへうみ・ひと・くらしグループとして出展している。本番前には「商談会参加のココロエ」と冠した勉強会を実施して準備を整え、実際にいくつか商談も成立させている。

うみ・ひと・くらしシンポジウム(2016年静岡開催)

広がる女性ネットワーク

ますます元気に活動をつづける女性たちではあるが、最近シンポジウムの中でもよく話題になることの一つに、活動の後継者問題がある。10 年、15 年と継続してきた活動の担い手たちの多くが、第一線でバリバリ頑張るのはちょっとしんどい年齢に差し掛かってきている。一方で、「周りを見渡したら、実は身近に思いを共有できる担い手がいた」という事例もある。漁業を継いだ息子の妻や、婚約者を連れて地元に戻ってきた娘が、家業の漁業や女性活動を積極的に担うという、理想的ともいえる展開が実現した例がある。いくつかのグループでは「今やっている仕事が定年になったらこちらに来てくださいって、地域の女性たちを勧誘している」のだそうだ。いずれにしても、女性たちが一生懸命かつ楽しそうに活動している姿を周囲に見せてきたことが、次の担い手につながっていく大きな要因となっているのだろう。うみ・ひと・くらしシンポジウムも、新たな参加者が増えて行かないとマンネリ化し、停滞していく恐れがあるが、前の年に参加した人が地元で活動する他のグループの女性に声をかけて、翌年に一緒に参加してくれたり、開催地で新たな活動グループとの出会いがあったり、フレッシュミズ部会に参加した若手女子たちがシンポジウムの方へも出席してくれるということなどもでてきている。
フレッシュミズ部会は、漁村の若手女性たちが交流する場を作り出し、情報発信やネットワークづくりを行っていこうという趣旨で、2017年1月に立ち上げられた(主催:全国漁協女性部連絡協議会、後援:東京水産振興会)。ここでは漁業や漁協女性部という枠に囚われず、漁村地域の中の若手女性の存在をクローズアップしていくことが求められている。これまで3回の懇談会を開催しているが、漁業に従事している女性、漁業とは全く異なる職業を持つ女性、自ら起業している女性など、参加者のライフスタイルは様々だ。共通しているのは漁村で暮らし、地域の課題をそれぞれの立場でとらえ、何とかできないものかという思いを持っているということだろう。
「地元の魚のおいしさを広めたい」「漁業や地域を元気にしたい」「みんなで儲けてハワイに行こう」いろいろな思いをもって活動してきた女性たちが創り上げてきた流れに、今、若手女性をはじめとする新しい流れが加わり始めている。その流れは一緒になったりわかれたりしながら、先へ先へと進んでいくことだろう。うみ・ひと・くらしフォーラムも、この流れに乗って新たな展開を模索している。(了)

ページトップ