Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第358号(2015.07.05発行)

第358号(2015.07.05 発行)

帆船日本丸と横浜みなと博物館の事業

[KEYWORDS] 海洋教室/船の工作教室/横浜みなとキッズクラブ
帆船日本丸船長◆山本訓三
横浜みなと博物館館長◆志澤政勝

帆船日本丸は今年1月27日に進水85周年を迎え、4月29日には横浜で公開を始めて30周年となった。
現役時代は船舶職員を養成していたが、横浜に来てからも船内訓練等による海洋教室を実施して青少年の海洋教育に貢献している。日本丸と一体的に運営されている横浜みなと博物館は、1989年の開館以来、海や港、船をテーマにした小学生向けの教育普及事業を行っている。


帆船日本丸

親子海洋教室甲板みがき

カッター訓練

帆船日本丸は姉妹船の帆船海王丸とともに、昭和初期、船員育成の拡充のため建造が計画され、スコットランドのラメージアンドファーガソン社の設計により神戸の川崎造船所で、1930(昭和5)年1月、2月にそれぞれ進水しました。竣工後、両船は航海訓練所の練習船として航海しました。帆船日本丸は、1984(昭和59)年に日本丸2世にその役を引き継ぎ、引退し、1985(昭和60)年から横浜市の旧横浜船渠の第一号ドックに係留保存されています。
帆船日本丸は公開事業、錬成事業を行うため、現在も"生きた帆船"として船舶資格を持つ必要から年次船舶検査、船体整備工事と日常の保守点検整備などを実施しています。日常の保守点検整備は、職員だけでなく甲板ボランティアの協力も得ています。
帆船日本丸は、1985(昭和60)年4月から現役時代の状態(生きた帆船)を維持しながら、1年間に290日程度一般公開を行っています。数年前からガイドボランティアによる船内案内を行いサービスの向上にも努めています。2015(平成27)年夏には、入場者500万人を達成しました。また、1年間に12回程度の市民の展帆ボランティア約100名の協力で、帆船日本丸のすべての帆をひろげる公開展示(総帆展帆)を行っており、その回数は320回を重ねているところです。
日本丸は保存・公開と共に、青少年の錬成事業を行っています。この事業の主なものは、「海洋教室」です。小学生、中学生を中心に帆船日本丸、付属の訓練センター、カッター(短艇)などを活用し、船内に宿泊して船上生活体験をしながら、帆をひろげたり、甲板磨きをしたり、周辺水域でカッターを漕いだりすることで、協調性、責任感、協力すること、友を思いやる気持ちなどを養っていきます。最終的には、海・船・港の知識を学習します。海洋教室には、半日・1日・宿泊のそれぞれのコースがあります。現在までの海洋教室の実施回数は600回を超え、参加人数合計は約31,700人となっています。

横浜みなと博物館

ラーで動く船をつくる工作教室

横浜みなとキッズクラブのコンテナターミナル見学会

横浜みなと博物館は、開館20年目の2009(平成21)年に横浜開港150周年記念事業として、それまでの横浜マリタイムミュージアムからリニューアルしました。博物館の使命を「横浜港を知り、考え、楽しむことのできる市民のための博物館」、展示テーマを「歴史と暮らしのなかの横浜港」とし、横浜港の歴史と暮らしとのかかわりのなかで横浜港について知り、学ぶ展示を目指しました。
展示プラン作成にあたっては、横浜市内の小学生に是非見学に来てもらいたいと考え、社会科の学習単元に合わせた展示とワークシートを用意しました。一例として5年生用の教材には、自動車の輸出や食料等の輸入を取り上げ、貿易と生活のかかわりを知る展示として「港が見えるキッチン」をつくりました。家庭のキッチンを再現し、冷蔵庫や食卓、シンクなどには、輸入している魚介、野菜、果物、洋服、靴、ガスレンジなどを置き、タグをつけて輸入先や輸入量などの情報をいれました。すべて触ることができるハンズオン展示です。食卓に置いた和食と洋食から、私たちが毎日食べている食料の依存率が分かるようにしました。
展示だけでなく、当博物館の主要事業である教育普及事業でも、横浜港を出発点に参加者に港・海・船のことを知り、考えることを目標に実施しています。年間を通して小・中学生から大人までを対象としたいろいろな教育普及事業を行っています。ここでは、小学生向けの船の工作教室と横浜みなとキッズクラブを紹介します。
動く船をつくる工作教室:毎年夏休みに実施している船の工作教室は、推進源・推進動力の違いによる3種類を実施しています。「モーターで動く船」「ソーラーで動く船」「ポンポン船」です。工作教室では、水上を走る船をつくることを通して、船の形や推進力などについて知り、船に親しみ、併せて工作力を養うことを目的としています。船体になる板や発泡スチロールに線を引くことから始めます。完成後はプールでレースをします。まっすぐ走らず、レースに負けても、自分ひとりで動く船をつくった喜びと達成感で皆満足そうです。
横浜みなとキッズクラブ:横浜市内の小学校高学年(4年~6年生)を対象に、横浜みなと博物館や帆船日本丸、あるいは横浜港およびその周辺をフィールドにした体験的活動を、同じメンバーで1年を通して行うクラブです。身近なところから海と船と港、くらしと環境について考え、興味と関心を深めることが目的です。活動は、港の観察会やコンテナターミナル見学会、造船所見学会、シーカヤック教室、帆船日本丸での海洋教室、水産総合研究センター中央研究所および漁業調査船見学会など年7回のプログラムを行っています。ただ見学や体験をするだけではなく、見学後はその成果を壁新聞にして発表、そしてその日の活動は活動ノートにまとめます。ふだん行けないところに行き、学校では習わない港や船、海のことを知り、体験ができたという感想が寄せられています。

帆船日本丸、横浜みなと博物館とともに、国の重要文化財であるドックやシーカヤックパークなどの関連施設と一体的に活用いただき、見学だけではなく、ぜひ教育事業にも参加して、様々な面から海や港や船について興味を持っていただければと思います。(了)

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