Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第355号(2015.05.20発行)

第355号(2015.05.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(国立研究開発法人海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆中東などからは社会の混乱による悲劇的なニュースが引きも切らない。アジア・太平洋地域は比較的に平穏であるが、自然の脅威に絶えず晒されている。4月下旬に発生したネパール大地震は大きな災害を引き起こした。加えて、連休中にはパプア・ニューギニアでも大地震が発生した。鳥島近海ではマグマの上昇による地震が発生、溶岩噴出により、西之島の拡大も続いている。首都圏に近い箱根山でさえも、マグマの活動による地震が急に多くなり、規制措置が取られた。箱根山はフィリピン海プレート、ユーラシアプレート、北アメリカプレート、 太平洋プレートが交錯する極めて複雑な場所にあり、地殻変動と火山の関係が無視できないところである。これから新緑山行の季節に入る。ゆめゆめ警戒を怠らないようにしたい。
◆今号では、まず北沢一宏氏に海洋生物多様性の保全と持続可能な利用に関して国連作業部会における議論のポイントを紹介していただいた。実効性のある政策には科学調査、それに基づく影響評価、そして持続的な管理法の確立が重要である。しかし、途上国と先進国の間には海洋データの取得、解析能力に大きな開きがある。これは海洋遺伝資源などの先端分野において特に顕著である。途上国側は資源の囲い込みにより未来の可能性を確保しようとする傾向が強いが、これが過ぎると基盤となる科学調査や利活用の道さえも阻害することになる。海洋保護区の安易な導入を避けつつも、データの共有、人材育成、技術移転などで信頼関係を醸成し、時代の進展に合わせて国連海洋法条約を見直していくことも今後必要になるであろう。わが国の海洋調査研究への評価は高いが、昨今の予算削減により調査船、研究船の運航は危機的な状況にある。自由な国際学術研究を促進することに加えて、省庁内外の連携を強化し、国として一体感のある国際発信をしていくことがますます重要になっている。
◆次のオピニオンは嘉山定晃氏による魚食のすすめである。おさかなマイスターでもある嘉山氏は、水産資源の持続可能な利活用は魚食の普及と表裏一体をなすものとして、魚食の普及に努めている。わが国の魚には四季の旬だけでなく、初カツオに見られる文化的な旬もあるという。先人が育んできたわが国の魚食はまさに文化なのだ。
◆若い頃、民俗学者の宮本常一氏による『塩の道』(1985年講談社)を読んだことがある。日本列島で人々が塩を確保してきた営みにも豊かな食の文化史を見ることができる。長谷川正巳氏には、この塩づくりの変遷について解説していただいた。かつて小学校で学んだ塩田はどこに消えたのかずっと不思議であったが、わが国の製塩は1960年代に大きな技術革新があり、塩田法はイオン交換膜法にとって代わられていたのである。塩づくりが農業から工業に変貌したという表現にはまさに技術革新の素晴らしさが凝縮されている。一方で「藻塩焼く」という和歌の表現に見られるような豊かな塩の文化を継承し、それをビジネスモデルとしても展開していくことの大切さをよく理解できた。(山形)

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