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Ocean Newsletter
第354号(2015.05.05発行)
- 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構核融合研究開発部門増殖機能材料開発グループ◆星野 毅
- 鴨川シーワールド館長◆荒井一利
- 国立研究開発法人海洋研究開発機構深海・地殻内生物圏研究分野分野長◆高井 研
- ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌
編集後記
ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌◆4月10日、カズハゴンドウが約150頭座礁する事件が茨城県 鉾田市台濁沢(だいにごりさわ)の海岸で報告された。生存の確認された個体を海に戻す作業がおこなわれたが、再び浜に漂着。死が確認された。イルカの大量座礁にはいろいろな要因が指摘されているが、謎がのこった。イルカとともにハクジラの仲間には世界最大のマッコウクジラやシャチ、ツチクジラ、ゴンドウクジラなどが含まれる。シャチは日本では鴨川シーワールド、太地町立くじらの博物館、名古屋港水族館などでお目にかかることができる。
◆鴨川シーワールド館長の荒井一利氏によると、謎の多いシャチの生態や行動について、野生のものとともに飼育下での研究が相当進んでおり、世界におけるシャチの生態型がさらに明らかになる日はそう遠くはない。鴨川シーワールドを訪れたのはいまから20年以上も前のことであったが、シャチの背中に乗った飼育員がプール内で跳躍する姿に興奮したものだ。人間とシャチとのかかわりは水族館におけるパフォーマンスのような場合にかぎらない。自分より体躯の大きなクジラ類をも殺戮するシャチは北海道アイヌの人びとにとりカムイ・フンペ(カミのクジラの意味)、つまりカミの国から人間社会に食料をもたらす重要な存在とみなされている。北米の北西海岸一帯でもシャチはさまざまな造形物として地域の文化を表す重要な表象となっている。カナダのバンクーバー島周辺のシャチの生態については、P.スポング博士の研究で著名だが、沿岸域の汚染でシャチが深刻な被害を受けている。地域ごとに野生の海洋生物と人間とのかかわりにも思いを寄せたいものだ。
◆「海のテロワール」という耳慣れない用語がとびだした。国立研究開発法人海洋研究開発機構の高井研氏によると、海における多様な種類の微生物群(マイクロバイオーム)が海洋生産物の味や品質などにおよぼす作用が海のテロワールである。一部、岩手県大船渡市の末崎でワカメを対象としたワカメのテロワール利用が進んでいるようだ。水産物の付加価値の向上に役立てようとする研究は未開拓の情況にあり、日本が今後ともに目指すべきと指摘されている。津波からの復興に海のテロワール研究が役立つことを大いに期待したい。
◆微生物よりもさらに微小な世界にさまざまなイオン群が存在する。海水には多種類のイオンが含まれている。現代ではリチウム電池が産業用に普及しており、その需要は飛躍的に増加しつつある。海水からリチウムを分離する技術が革新的に進められている。国立研究開発法人日本原子力研究開発機構の星野毅氏はリチウムを海水から分離膜を通して抽出する画期的な技術を開発中である。豆腐作りに使用されるにがりや海水の淡水化技術など、リチウム分離の対象となる産業は幅広く現存する。海のマクロからミクロに至る世界で進む研究と技術革新で日本の果たす役割を見る思いで、すがすがしい気分になるのは私だけではないだろう。(秋道)
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