Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第352号(2015.04.05発行)

第352号(2015.04.05 発行)

海への理解を広めるには教育の見直しが必要

[KEYWORDS]海への親しみ/海洋性レクリエーション/海洋教育
(公財)ブルーシー・アンド・グリーンランド財団専務理事◆菅原悟志

海洋国日本といわれるが、近年、国民の「海離れ」が著しい。それは教師や親など大人達にその責任がある。危険だからといって海から遠ざけるのではなく絶え間なく子供に対し体験活動を通じ、海の素晴らしさ伝える機会を創出することが大切である。


海離れは大人の責任

日本は四方を海に囲まれ、昔からその多くの恵みを享受しながら生活をしてきた。いわば、海の中に存在すると言ってもいいほど関係は深い。だが近年は国民の「海離れ」が進み、特に若者が顕著である。その要因のひとつには教師や親などが子供たちへ海の大切さや魅力などを十分に伝えてこなかったことである。
例えば、学校教育では海に関する授業時間はわずかであり、また安全面を考慮し臨海学校を実施する小中学校は少数になった。家庭では危険だといって親が敬遠する場合も見受けられる。「海は楽しい」という経験がなければ足が遠のくことは当然である。海はいろいろな表情を持ち、優しいばかりでなく時には牙をむく。だからといって「海に近づくな」と強調するのではなく、まず「体験させてみる」という気持ちが肝心だ。それが本来の教育であり、その意識に欠ける大人も少なくない。
加えて「海の日」を7月第3月曜日に移行したこともあげられる。「3連休が減ることで観光産業に打撃を与える」との意見もあるが、経済効果優先で祝日を設定してきた最近の発想自体に無理がある。そもそも海の日は、海の恩恵に感謝し、海洋国日本の繁栄を願う日であるはずだ。祝日の由来を含めた海洋知識を子供たちへ普及させるという重要なことが置き去りにされたままだ。これらが積み重なり、子供は海への理解不足や体験機会を失ったことで、関心が薄れてしまった。海離れは自然の流れといえる。

B & G財団が担ってきた役割

■青少年の健全な育成を目的とした海洋センターは全国に472カ所

■ライフジャケットを用いた子どもたちの安全教室

ブルーシー・アンド・グリーンランド財団(以下、B & G財団)は海に視点を向け、海洋スポーツや自然体験を通して、青少年の健全な育成のための活動をしてきた。艇庫、プール、体育館を有する「海洋センター」は全国に472カ所あり、地域に親しまれる施設として活用され年間の利用者数は1,000万人を超える。施設整備だけでなく利用者の指導的役割を担う人材育成も重要であると考え、19,000人の指導者を養成してきた。これら指導者は海で遊ぶ楽しさやその魅力を子供たちに体感させるとともに集団生活のなかで挨拶やマナー、規律を身につけさせ、「礼と節」を重んじた教育も行っている。現在では指導者のなかから首長や教育長など多くの自治体幹部が輩出され、その存在は活動を推し進めていくうえで、貴重な役割を果たしていることも見逃せない。B & G財団では子供と自然や地域とのつながりをハードとソフトの両面から支えた活動に取り組んできた歴史がある。
日ごろ子供たちにカヌーやヨットを教える指導者も数多い。満ち足りた社会で生活しているがゆえに、風や波に遮られ思い通りにならない海での体験や発見が子供の感性を刺激し、喜びと感動を覚え、それが成長へ大きな影響を与える。一方でたくましく育っていくわが子の姿を見ながら、当初は危険だと言って消極的だった親も徐々に理解を示し、一緒になって楽しむ様子も目にする。同じ時間を共有することで親子の「絆」を強めることも狙いである。また水難事故の多発などを背景に、小学校のプールなどを活用しライフジャケットやペットボトルによる落水時の対応の指導や紙芝居を用いた安全教室など、授業時間のなかで実施している。「自分の命は自分で守る」という自助意識を高めることも必要であり、自然の危険を回避する力は、自然体験の中でしか学ぶことができないといえる。
近年においては海洋センター所在自治体とのネットワークを重視し、全国の首長、教育長などを対象に「全国サミット」も行っている。1月には220人の首長をはじめ関係者770人が集まり、センターが取り組む先進活動の紹介や地域の活性化を目指し連携協力する「共同宣言」などが確認された。このようにB & G財団が中核となり培ってきた全国の自治体との強いパイプをテコに事業を推進していることも大きな強みである。
長年にわたり子供たちに海の素晴らしさや大切さを伝えてきた立場としては、国民の海離れは残念なことであり将来に対しての一抹の不安が胸をよぎる。自然体験の教育効果は大きく、自然の癒しや教えは社会で生き抜く力や粘り強さを与えるといわれる。子供は興味を持てば楽しむ気持ちが芽生えてくる。海と触れ合い、親しみ、そして理解を深める。そのきっかけづくりを担うのがB & G財団であり、海離れに少しでも歯止めをかけたいという願いも込められている。

大人の意識改革が必要

多様化、複雑化など子供を取り巻く環境は大きく変化している。人が成熟しにくい時代であり、だからこそ未熟な子供には自然体験が欠かせない。そのためにこれからは学校、家庭、地域、そして海洋センターが歩調を合わせ、一体となり子供の成長を支え、地元の特性に重きを置いた活動にも取り組んでいく。また、多くの指導者を育成してきたノウハウを生かし、海洋センターだけでなく異なる分野の人材育成にも着手する。その手始めとして大学から委託を受け、授業科目として学生への研修を計画している。さらに一歩前進し、新たな指導者の開拓を見据えた活動も行っていく。「海を知る」大人の存在は不可欠であり、民間組織の活動が道をつける意味合いは大きい。
子供の意思は大人から反映されることが多い。あえて海に接する機会をつくらなければ、興味や関心を示すことのないまま成長しやがて大人になる。この負の連鎖を断ち切り、子供が自信を持ち、潜在能力を発揮できるための舞台づくりは大人の役回りであろう。今後加速する海離れの現実は避けて通れない。そこに歯止めをかけるには従来の学校教育、家庭教育を見直すとともに、海の日の固定化など、積極的な取り組みが求められる。地方では少子高齢化、過疎化などの進行により抱える課題は多く、ともすれば教育が後回しにされることがある。特に海に対する教育への理解は途上だ。役所や専門家に任せておけばいい、という姿勢ではなく誰もが海の重要性を認識することが海洋国日本に生まれ、育ててもらったかけがえのない海への恩返しであり義務である。(了)

● ブルーシー・アンド・グリーン財団公式サイト http://www.bgf.or.jp

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