第349号(2015.02.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆このところ熱帯の日付変更線付近の海面水温が高めに推移している。ペルー沖の水温はむしろ低めで、「エルニーニョもどき」と呼ぶ状態になっている。このような時には日本付近には寒気が吹き込みやすい。節気が雨水、啓蟄と進むにつれ、日本付近の海水温は緩みだすが、そこに強い寒気が吹き込むと南岸低気圧が急速に発達し、太平洋岸にも大雪をもたらすことがある。これからの季節は要注意である。
◆先日、日本カツオ学会が中土佐町で主催した「カツオフォーラム」に出かけてきた。黒潮の上流域にあたる熱帯太平洋ではまき網漁による漁獲量が急増し、カツオ資源は危機的な状況にある。もうすぐ初カツオの季節になる。しかし、一本釣りに代表される日本の伝統的沿岸漁業は厳しい現実に晒されているのである。水産庁は中西部太平洋まぐろ類委員会において持続可能なカツオ漁に向けて漁業管理措置の導入に努めている。こうした努力を国民全体で応援していきたい。地球シミュレータの予測ではこの春に黒潮は離岸流路を取る。(独)海洋研究開発機構では黒潮親潮ウオッチのサイト(http://www.jamstec.go.jp/jcope/htdocs/kowj/kowj.html)を開設した。海事関係者には是非活用して欲しい。
◆人間活動が最も活発なのは内陸と繋がる河口を持つ沿岸域である。世界の巨大都市の多くがこうした地域にあることからも明らかであろう。それゆえにさまざまな人間活動によるストレスが海洋環境に強くかかり、その持続可能性が危機に瀕しているところでもある。沿岸と海洋環境の管理においては科学的な知見に基づき、関係するステークホールダーが協働して利害関係を調整し、総合的に取り組む必要がある。そこでチュア・ティア・エン氏に東アジア海域環境管理パートナーシップにおける実践活動から得られた叡智をご紹介いただき、更に日本を含むアジアの国々の進むべき道を照らしていただいた。
◆続くオピニオンは栽培漁業について久しく研究をされてきた安達二朗氏によるものである。「とる漁業」から「つくる漁業」への転換史をヒラメ種苗放流の調査に基づき解説していただいた。特に、放流魚が自然のサイクルに入り世代を超えて効果を持つということは水産資源の持続的活用に重要な視点である。こうした再生産魚の調査、研究がほかの魚種にも広がり、その活用法が確立されることを望む。
◆持続的な漁業に関するオピニオンがもうひとつ揃った。大森 信氏による駿河湾のサクラエビ漁業に関するものである。識者の意見を取り入れて、すべての漁船が漁獲調整に協力し、水揚代金も適切に分配するという画期的なプール制を半世紀にわたって続けてきたという。それにも拘わらず、漁獲量は長期低落傾向にある。これは技術の進歩による適正量を超える漁獲に加えて、湾を潤して来た豊かな河川水や海底湧水が沿岸域の開発により大きく影響を受けている可能性があるという。海洋生物資源の持続的な活用にはこうした陸域と海洋のつながりについての科学的な調査、研究が不可欠である。今号を貫く沿岸域の総合的管理の精神がうねりとなって広がることを期待している。(山形)

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