Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第338号(2014.09.05発行)

第338号(2014.09.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆夏休みも終わり、2学期の始動である。この夏、海へ出かけ、いろいろな体験や思い出をもった子どもたちも多い。海洋教育は幼いころから大人まで世代や校種を超えた連携を踏まえて進められるべきだ。海の高等教育は大学でということになるが、日本では東京海洋大学、水産大学校をはじめ、全国には水産学部、海洋学部をもつ大学がある。国際的な高等教育機関としては本号で紹介されている世界海事大学(WMU)が著名だ。同大学に教員として勤務する武井良修氏によると、世界各国からの学生が修士・博士課程で多角的な教育を受け、学んだ実践的な成果を各国にもちかえるという。WMUが国際海事機関(IMO)との密接な連携をもつなかで実現している国際性を踏まえた海洋教育の在り方はわが国が制度としても学ぶべき点である。
◆海洋教育は海への理解を深めるためのものでもある。今年3月5日、沖縄の慶良間諸島が釧路湿原(1987年)から27年ぶりに国立公園に指定された。サンゴ幼生の拡散センター、ザトウクジラの繁殖場、変化に富む海岸・海中景観などが評価された。環境省那覇自然環境事務局長の植田明浩氏は、海洋環境保全の世界的動向を踏まえた取り組みとともに、地元の座間味村・渡嘉敷村との連携が国立公園誕生のもととなったと述懐されている。国立公園のうちの海洋空間の外縁は世界自然遺産の知床半島や小笠原諸島で陸地からそれぞれ3km、5kmであるが、7kmまでもが公園区域に指定された点は特筆すべきであろう。海と人間との関わりでいえば、座間味は1901年、沖縄でカツオ漁が創始された島である。公園区域の最東部にあるチービシ(慶伊干瀬諸島)は琉球王国時代から糸満漁民などがサンゴ礁資源を利用してきた豊かな漁場でもある。また、阿嘉島の阿嘉島臨海実験所はサンゴの卵を群体までに養殖する試みを世界で初めて成功させた。スノーケリングやダイビング、ホエールウォッチングなどの海洋観光と沿岸漁業、海洋保護区の保全と維持など、海洋空間における総合的な取り組みは欠かせない。今回の指定は琉球列島における世界遺産化をめぐる動きに一石を投じる朗報といえるだろう。
◆海洋教育の現場からの報告が玄界灘にある離島、小呂島の元教員山口哲也氏により紹介されている。海の正倉院とされる沖ノ島に私も訪れたが、北限とされるビロウはほとんどみることができなかった。だが、小呂島の七社神社にはビロウが境内に繁っていた。海を越えた古代人の方位観とその技術は未解明の謎でもある。この点で九州各地におけるビロウの遺伝学的な比較分析が鍵をもつといってよい。本号で海洋教育の広がりと奥深さを実感できた。南からのさわやかな風をほほに感じる。(秋道)

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