Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第324号(2014.02.05発行)

第324号(2014.02.05 発行)

浮き島式洋上エネルギーファーム~風レンズ技術を用いた統合的自然エネルギーの利用~

[KEYWORDS]レンズ風車/洋上浮体/漁業協調
九州大学応用力学研究所所長◆大屋裕二

風エネルギーを集中させて効率を飛躍的に高めた新しいタイプの風力発電システムを開発した。従来の風車と比べ2~5倍の発電出力の増加を達成した、小型(1~5kW機)・中型(100kW機)のレンズ風車である。
風力エネルギーの有効利用のため海上展開を図り、福岡市博多湾に直径18mの六角形浮体を浮かべ、3kWレンズ風車2基と2kWソーラーパネルを搭載した浮き島式のエネルギーファームを実現した。

レンズ風車とは

■図1:風レンズのメカニズム

風車(水車)による発電量は流速の3乗に比例する。風力(水力発電)において地形や構造物の流体力学的性質をうまく利用して流れを増速させ、流体エネルギーを局所的に集中することができれば、発電量は飛躍的に増加する。「レンズ風車(レンズ水車)」とは、流れを集めるという意味をこめて新しい研究の目的を象徴するように与えた名前である。
図1にレンズ風車(レンズ水車)のアイデア、メカニズムをスケッチしている。風車翼を包むディフューザと呼ばれるリングの出口周囲に「つば」と称して、渦形成板を取り付けてみた。その強い渦形成のため背後に低圧部を生成し、風は低圧部をめがけて流れ込んでくる。そのためにディフューザ入口付近では大きな増速効果が得られる。このようにして集風加速体としての「つば付きディフューザ」(風レンズ)が生まれた。レンズ風車の長所をあげると、
(1)2~5倍の高出力を達成(風エネルギーの集中「風レンズ効果」を利用)。
(2)「つば」によるヨー制御(出口端の「つば」は、風見鳥のように、風向きの変動に応じて風レンズ風車を回転させ、常に風車が風向きに正対する配置に制御する)。
(3)風車騒音の大幅低減(ブレード先端渦がディフューザ内部境界層と干渉し抑制されるという流体力学的メカニズムで、空力音が大幅に低減して騒音は気になることはない)。
(4)安全性の向上(高速で回転する風車が構造体で覆われている)。
(5)バードストライクを回避できる。
(6)集風体の頂部に避雷針(雷害を回避)。
(7)優れた景観性(「輪」が「和」を呼ぶ)。
レンズ風車は風車を取り巻く環境問題をすべて解決している。この風レンズのメカニズムは空気も水も同様に働き、「レンズ水車」として、河川、潮流発電にも応用することができる。従来水車の3~5倍の出力が獲得できる。

コンパクトレンズ風車の開発-実用風車を目指して

■図2:3kWレンズ風車の野外実験

図2に野外での発電性能結果の一例を示す。図2のCw=1.0はロータの回転面積を基準にしている。Cwとは近づいてくる風の運動エネルギーのうち、風車がどの程度を自分の回転エネルギーに取り込めるかを示す割合である。レンズ構造体の外径をとって面積基準(*)にするとCw*=0.54になる。普通の高性能な大型風車でもCw=0.4くらいなので30%大きい値となる。これが意味することは、普通の風車をそのまま大きくし、風レンズの外径まで大きくしてもレンズ風車の出力に追いつくことはできないということである。

浮き島式洋上エネルギーファームを目指して

■図3:博多湾プロジェクト
2011年12月4日設置の18m直径浮体、3kWレンズ風車2基、2kW太陽光パネル、計8kWエネルギーファーム。

(1)浮き島のコンセプト
すぐに深くなる近海を有する日本では、ヨーロッパのような着床式の洋上風力発電は限定される。そこで浮体式風力発電が計画されている。ここで紹介するように本格的な浮体をプラットホームとして浮かべ、この上に風車、太陽光発電、海面下で波力、潮流発電など装備し、複合再生可能エネルギーファームとして使う。また、浮体を利用して、海洋牧場、水産加工場、電気船の充電基地、などの漁業協調型の多目的利用を考える。したがって、福島沖等の大規模集中化の浮体式風力発電構想とは一線を画する。まさに「浮き島」構想である。中型の分散型独立電源としての確立である。この発電定格は数MWクラスになる。
(2)博多湾海上浮体風力発電施設の実証試験
2011年3月から九大応力研の大型水槽でモデル実験を行い、2011年12月4日、博多湾に直径18m程度の浮体を浮かべ、3kWレンズ風車2基および太陽光パネル2kWを搭載した浮体式小型複合エネルギーファームを実現した(図3)。現在、風力、波浪、浮体動揺など種々のデータを取得中である。浮体から3km離れた沿岸部設置の同タイプのレンズ風車と浮体レンズ風車の1年間の総発電量を比較した。その結果、沖合い700mの浮体でも、年間平均風速で25%程度高く、総発電量は2倍に達した。また直径20mほどの小さな浮体でも立派な漁礁になりつつある。
(3)本格的な浮き島洋上エネルギーファーム(漁業共存)
実用化規模の浮体式再生可能エネルギーファームを計画している。これは漁業協調型で、養殖生け簀を浮体近辺に配備する。一個の浮体規模は約100m長さの浮体構造物で連結された三角形が基本型である。できれば将来、複数連結型にしたい。この上に350kWクラスのレンズ風車3基、0.2MW級の太陽光パネルを設備し、1.25MW級の浮体式エネルギーファームとする。この電力を養殖産業、浮体上の加工場、電動推進船へ利用し、余剰分は島や漁港の各世帯への電気とする。エネルギーの地産地消である。

おわりに

筆者は近未来に訪れるスマートコミュニティは地方の農村、漁村等から実現していくものと考えている。農林水産が主体な地方では豊かな自然エネルギーに囲まれている。これらをクリーンなエネルギーとして利用し、化石燃料を一切使わない、エコな農業、エコな水産業が私たちのコンセプトであり、そのための研究開発に努力している。
新しく開発したレンズ風車・レンズ水車というもの、この将来への可能性について論じてきたが、何よりも、尖ったブレードが回る風景が、周囲の風レンズの「輪」によって、より景観になじむ「和」が演出されると筆者は思う。日本の農業の風景、水産業の風景に、環境にやさしく調和をもたらす「和」の構造を演出したい。(了)

第324号(2014.02.05発行)のその他の記事

ページトップ