Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第324号(2014.02.05発行)

第324号(2014.02.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆早いもので今年も大寒を過ぎ、本号が読者に届くころは立春の節気になる。春夏秋冬、それぞれの季節の立つ日の前日が節を分けることから節分といわれ、平安時代には凶方を避ける方違え(かたたがえ)が行われていた。現在のように節分が立春の前日を指すようになったのは、江戸時代からである。豆まきの厄除け行事や、この二十年ほど関西方面を中心に流行している恵方巻を食べる習慣はなんらかの形で古代中国の道教に関係しているに違いない。
◆古典文学研究者の中西 進氏によれば、「やまとことば」は同じ役割を持つものを一つのことばで表現し、ものとして形態が違っても区別しないのが特徴だということである。「はる」は明るく晴れ晴れとする「晴(は)る」、芽が生き生きと膨らむ「張る」、広々と開ける「原(はる)」、冷える冬を「祓(はら)う」、そういう高揚を表すことばであったらしい。立春を前にして、大陸の漢字文化を受け入れたやまとの人々に遠く思いを馳せながら、ふとあたりを見回すと、木々の芽もいくぶん膨らみ、空も湿り気を帯びて霞んでいる。本格的な春の訪れももうすぐである。
◆今号ではまず小林正男氏に平成22年に制定された「動的防衛力構想」の目ざすところを解説していただいた。この構想では海に囲まれたわが国を水中から脅かす潜水艦に対する警戒監視にはパッシブ捜索能力の高い潜水艦が最も効果的であるとしている。水中探索には音響技術が重要であり、水温、塩分、圧力の分布が音速を決定するので、その分布を知らなければならない。それには絶えず変動する海中の渦や海流などを詳細に観測し、予測する必要がある。こうした情報を提供するのは海洋物理学であり、わが国はもっとこの分野に力を注ぐべきである。
◆科学技術の暗雲を吹き払うかのように、出力を一気に2~5倍にも高める画期的な流体工学技術が風力エネルギーの分野で生まれている。開発者の大屋裕二氏に解説していただいた、「レンズ風車」は、騒音の低減など環境面でも多くの長所を備えている。最新技術が広く世界で採用され、再生可能エネルギー分野に新時代を拓いて欲しいものだ。
◆本号の最後を飾るのは海の幸に関するものである。藤井直紀氏にはブームに沸く有明海のビゼンクラゲ漁について寄稿していただいた。ビゼンクラゲは中国の業者に高価格で取引されるので、乱獲状況にあるという。しかし、このクラゲの生態はまだ良くわかっていない。最近の大量発生が生態系の乱れによるものなのか、単に数十年スケールの自然変動によるものなのか、調査を急ぐ必要がある。そのうえで漁獲を調整するメカニズムを導入すべきであろう。(山形)

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