Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第318号(2013.11.05発行)

第318号(2013.11.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆寒露の節気を過ぎ、立冬が近づいているにもかかわらず、台風26号が日本列島を襲い、伊豆大島では発生した土石流が多くの人命を奪ってしまった。気象庁の特別警報は、48時間雨量で50年に一度の値以上となる地点が50カ所以上、あるいは3時間雨量で10カ所以上あり、府県程度の広がりを持つと予想される場合に出されることになっている。このため、伊豆大島のケースは除外されてしまった。わが国は多くの離島から構成されている。その特異性にも配慮した特別警報はいかにあるべきか、一刻も早く対応策を練る必要がある。西太平洋熱帯域から日本南方にかけての海水温はいまだに高く、大型台風が次々に日本列島を狙い撃ちにしようとしている。これからも注意が必要である。
◆本号では京都大学の山下 洋氏に人の営みと自然環境や生態系との最適な関係を考える「森里海連環学」を紹介していただいた。大学は理学、工学、経済学、法学、文学などそれぞれの分野の専門性を磨く場として、これまで大きな役割を果たしてきた。こうした役割は変わらないが、これからは地球環境問題のように、より学際的、国際的なアプローチを必要とする研究・教育にもしっかり対応する必要がある。リオ+20の成果文書「我々が望む未来(The Future We want)」を受け、国際科学会議(ICSU)と国際社会科学協議会(ISSC)が先導する「未来の地球(Future Earth)」計画でも、持続可能な社会の実現に向けて広い視野を持った人材の育成に力を入れようとしている。
◆続いて鈴木石根氏には石油の代替物質となる炭化水素を生みだす海洋の微細藻類の大量培養可能性に関する最新の研究を紹介していただいた。最近は人工光合成に向けた研究も盛んに行われており、再生可能エネルギーにおける技術革新が新しい未来を開拓する日もそう遠くはないのかもしれない。
◆石原義剛氏には日韓共同で海女をユネスコ世界無形文化遺産に登録する活動を紹介していただいた。清少納言の枕草子第288段「うち解くまじきもの」に海女を描いた個所がある。「海はなほいとゆゆしきと思うに、まいて海士(あま)のかづきしに入るは憂きわざなり。...... 舟に男は乗りて歌などうち歌いて、...... 危うく後ろめたくはあらぬにやあらむ。...... 船のはたを抑えて、放ちたる息などこそ、まことに、ただ見る人だにしほたるるに、落とし入れて漂ひありく男は、目もあやにあさましかし。(海は大変なのに、海女が潜るのはつらいことである。...... 男は舟上にあって歌など歌って、...... 危なっかしく気がかりではないのだろうか。...... 浮上した海女が舟端をつかまえて息をついている様はちょっと見るものでも涙がこぼれるのに、海女を海に落とし入れて、海上を漂う男はみるからにあきれる)」。あまりにも具体的な描写に驚くが、男女差別を指摘したのはどうも清少納言の誤解だったようだ。自立した海女の活動は人と自然の共生のシンボルであり、早い時代から男女共同参画による共同体社会を具現するものであったのだ。(山形)

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