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オーシャンニューズレター

第304号(2013.04.05発行)

第304号(2013.04.05 発行)

三浦市における海洋教育の取り組みについて

[KEYWORDS]地域密着型海洋教育教材/東京大学三崎臨海実験所/海洋教育写真コンテスト
三浦市教育委員会教育部長◆及川圭介

東京湾と相模湾を分ける三浦半島の南端に位置する三浦市は、昨年3月に東京大学三崎臨海実験所と連携協力に関する協定を締結し、海洋教育に取り組み始めた。
新たな取り組みである海洋教育を学校で円滑に推進していくためにはどのような手立てやコーディネートが必要なのか。三浦市が行った推進体制づくりについて紹介する。

始まりは三崎臨海実験所との協定

■三浦市長(左)と東京大学三崎臨海実験所長による協定書調印の様子(平成23年3月27日)

三浦市は東京湾と相模湾を分ける三浦半島の南端に位置し、三方を海に囲まれ、水産業・観光業・農業を基幹産業とする市です。また、市内の三崎周辺の海は世界的にみても豊かな生物相を有しており、世界の中でも古い歴史のある東京大学大学院理学系研究科附属三崎臨海実験所(以下、三崎臨海実験所)があります。このような環境であれば、さぞ三浦市では、海洋教育の取り組みにも歴史があり、先進的な取り組みが行われてきたのではないかと思われるかもしれませんが、その始まりは平成23年3月27日、三浦市と三崎臨海実験所との連携協力に関する協定の締結でした。
この協定は、市民に向けた科学教育や学習支援、最新の科学技術や研究成果の発信と普及、文化的発展への寄与、海洋教育の促進という4つの柱を主な内容としており、海洋教育の促進については教育委員会が中心となって進めていくことになりました。

いざ海洋教育

■春の遠足での磯の生き物観察の様子

海洋教育の具体的な取り組みは学校教育の中で進めていくことになります。しかし、市が協定を締結したからといって教育委員会が「上から目線」で海洋教育推進を唱えたところで学校は動きません。学校には新たなことをすぐに受け入れられるほど人的にも時間的にも余裕はないのです。
そのような中で各学校のカリキュラムに海洋教育を組み入れるためには、既存の教育活動と関連付けたり、教育内容を精選したりすることによって時間を確保することが必要です。それを行うためには教員一人一人が海洋教育推進の意義を理解し、その魅力を感じ、子どもたちに学ばせることの必要性や重要性を共通に認識することが何よりも大切です。
そこで、そのための手立てとして、まず「校長先生をその気にさせる」ことから始めました。これから推進する海洋教育がどのようなものかを校長先生にしっかりと理解してもらえるよう工夫し、丁寧に説明しました。説明の場も通常の教育委員会会議室ではなく、三崎臨海実験所としました。その甲斐あってか校長先生方は海洋教育推進の意義と魅力を肌で感じ、各学校で推進していくためには全教員が海洋教育の魅力を実感することが必要であり、その機会を設けてほしい旨の提案が早速ありました。それを受け4月に開催する三浦市学校教育研究会総会で三崎臨海実験所長による海洋教育に関する講演を行うこととし、このことにより各学校で海洋教育を推進していくための下地をつくることができました。
さらに海洋教育の魅力を感じてもらうために三崎臨海実験所と連携した校外授業や最先端の科学技術を活用した教員向け研修も実施しました。また、市内の小・中学生を対象に三浦の海をテーマにした「2012 海洋教育写真コンテスト」※を行いました。子どもたちにとって身近にあり当たり前の存在である海を改めて見直し、学ぶきっかけづくりをしたのです。応募した子どもたちは、自他の作品を通して新たな視点で三浦を見つめ、その魅力を再発見したようです。
学校にとって海洋教育は新たな取り組みです。円滑な推進を図っていくためには、その道筋を示し、サポート体制を整えることが必要です。そこで学校での取り組みを支援するため、それぞれの地域性や実態に応じた学校別の地域密着型海洋教育教材づくりを始めました。そして、そのための組織として、校長会、教頭会、各校教員、教育委員会指導主事、臨海実験所職員の代表を構成メンバーとする「地域密着型海洋教育教材開発委員会」を設置しました。このことにより海洋教育の授業づくりや推進をどこかの誰かに任せるのではなく、三浦市の学校教育関係者全体で連携して担っていく仕組みができました。
このような環境整備を進める中で、学校の校務分掌に海洋教育推進担当を設けたり、教科部会の研究テーマに海洋教育を取り上げたり、総合的な学習の時間において海洋に関する授業づくりが学級・学年単位で始まったりと自発的な動きが見え始めました。今後のさらなる広がりに期待しています。

継続的・発展的取り組みに向けて

協定の締結により始まった三浦市の海洋教育の取り組みは約1年が経過しました。この間、走りながら考え実践してきたというのが実状です。この動きを今後継続していくためには、取り組むべき根拠をさらに明確にし、発展的に取り組んでいくための環境づくりが必要と考えます。
そのようなことから『第4次三浦市総合計画 三浦まちづくりプラン(2013年版)』に「郷土三浦を愛する心を育むため海洋教育の推進」を図ることを明示しました。
これにより市の施策への位置づけや他部局事業との連携が可能になりました。
また、三浦市内の全教職員が所属する三浦市学校教育研究会に「海洋教育部会」を新設することにしました。部会には市内全小・中学校の教員が所属しますので、学校間の情報交換や教科の中での海洋教育推進の可能性を協議する場ができました。
三浦市において、このような取り組みを行ってきましたが、これは海に近い、環境に恵まれた三浦だからできることと思われてしまっては今後の海洋教育の展望はないと考えます。これまで三浦市が取り組んできた実践事例や海洋教育教材等を近隣市町教育委員会の指導主事が集まる指導担当者会議で話題提供してきましたが、これからは学校教育関係者のみならず、社会教育関係者、地域の方や団体にもいろいろな手段・機会を通して広く情報発信していきたいと考えています。そのことを基にして地域間の交流が生まれ、ネットワークが構築され、お互いに知恵を出し合い取り組みを高めあえる関係ができていくことを望みます。海洋立国日本の多くの子どもたちが目を輝かせ、心ワクワク活動する姿を思い浮かべながら、私たち大人もいっしょに海洋教育の取り組みを楽しんでみませんか。(了)

※  「2012 海洋教育写真コンテスト」の優秀作品は三崎臨海実験所HPに掲載。

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