Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第304号(2013.04.05発行)

第304号(2013.04.05 発行)

志摩市再起動にかける私の想い

[KEYWORDS]里海/沿岸域総合管理(ICM)/ブルーエコノミー
志摩市長◆大口秀和

志摩の自然の恩恵をこれからも長く持続的に活用していくという課題は、リオ+20会議のオーシャンズデイにおいても議論されたブルーエコノミーの確立という世界的な課題と共通のものだ。
志摩市は国立公園の区域の中にあり、志摩の本物の豊かな自然が、多くの市民により意識的に守られている。志摩市のこれからの発展と経済の振興は、このブルーエコノミーという考え方に沿って、「新しい里海のまち」を作り上げることができるかどうかにかかっている。

はじめに

■写真1:東アジア海洋会議2009、マニラ。左からOPRF秋山昌廣会長(当時)、筆者、フィリピン元大統領フィデル・ラモス氏、OPRF寺島紘士、チュア・ティア・エン博士

志摩市は、地域おこしの政策の中心に沿岸域の総合的管理を取り入れ、持続可能な地域の再起動に取り組んでいます。この取り組みに至った経緯と、取り組みに対する私の想いをみなさんにお伝えしたいと思います。
志摩市は、2004(平成16)年 10月1日に志摩郡に属していた5町(浜島町、 大王町、 志摩町、 阿児町、磯部町)が 合併して誕生しました。合併前の1992(平成4)年には、英虞湾で有毒プランクトンであるヘテロカプサによる赤潮が発生し、真珠養殖産業が壊滅的な被害を受けました。当時、私は「これまでの対処療法的な手当てだけでは持続可能な地域振興は果たせない」と実感していました。しかし、合併前の英虞湾は4つの町に面しており、英虞湾を一体と捉えた施策を展開できる状況にはなく、もやもやした気持ちがくすぶっていました。
転機は志摩市合併後の2009(平成21)年にやって来ました。この年の6月にチュア・ティア・エン博士を始め、海洋政策研究財団の方々に志摩市を訪れていただき、お話を伺う中で、これまで求めていた地域振興と志摩における海との係わり方などが心の中で凝縮し始めました。そして同年にフィリピンで開催された東アジア海洋会議(写真1)に参加させていただいたことで、志摩市の再起動を果たし、志摩市民の喜びと幸せづくりには、山から川、川から海につながる自然の物質循環を理解し、志摩市民全員が自然に配慮した生産活動を進めるべきだとの確信にいたりました。志摩市が地域おこしの政策の中心に沿岸域の総合的管理を取り入れたのは、その基本的理念が自然界の摂理や道理のあり方といった科学的な根拠を基本に、生物である人間の個体はもちろん、地域における社会活動を存続させ得る考え方との確信をもったからです。

稼げる! 学べる! 遊べる! 新しい里海の創生

■志摩市里海創生基本計画
http://www.satoumi-shima.jp/

沿岸域の総合的管理は、市民の幸せづくりにきわめて有用ですが、この取り組みを進めるためにはどうしてもオール市民で取り組む必要があるため、市民への啓発が大切です。そこで私は政策的に明確な指針を示すものとして、『志摩市里海創生基本計画』(写真2)を策定しました。これは、「稼げる!学べる!遊べる!新しい里海の創生」を副命題として打ち出し、この項目ごとに具体的な取り組みの計画を作りました。昨年は市民啓発と情報発信を目的にさまざまなイベントを開催しましたが、あるイベントでの挨拶を踏まえて、私の想いをみなさんにお伝えしたいと思います。
私たち志摩市民は、古くから「御食(みけ)つ国(くに)」と呼ばれるほど豊かな山幸や海幸の自然の恵みを体いっぱいに受けて暮らしてきました。志摩の自然と穏やかに共生し、自然がもたらす食べ物をはじめとして快適な生活環境を享受するとともに、地域に根ざした志摩の偉大な文化を築いてきました。しかし、私たちはいつの間にか私たちと自然の間にあった、山と人、大地と人、海と人とのさまざまなつながりを忘れ、身勝手に自然の恵みだけの簒奪のみに走り、森から川、川から海につながる、物質循環や、自然の営みを破壊してしまうようになりました。思い出してください。私たち市民は、昔からこの志摩地域の大地と海からの自然の恵みをいただきながら、この自然を大切にしながら、仲良く共に生活し暮らしてきたことを。そして、山と大地と海を畏敬し誇りにしていたことを。
今、私たちが、志摩市総合計画の後期基本計画において重点的に取り組んでいる「新しい里海創生によるまちづくり」は、志摩市の経済の再起動を第一として、私たち市民と自然の間にあったつながりを再生し、世界のどの地域にも負けることのない素晴らしい自然の恵みを、その恵みを産み出す志摩の素敵な山や偉大な大地を、無限の富をはらむ海を、今の子どもたちや、そしてまた、その子どもたちに引き継いでいくためのまちづくりです。私たち市民がこれからも稼ぎ暮らしていくためには、まず、志摩市の豊かな自然環境と、自然の産み出す恩恵を維持していくことを考え行動しなければなりません。

環境保全と地域振興の両立にむけて

志摩の自然の恩恵をこれからも長く持続的に活用していくという課題は、過日ブラジルで開催されたリオ+20会議のオーシャンズデイにおいても議論された「ブルーエコノミーの確立」という世界的な課題と共通のものであります。志摩市は国立公園の区域の中にあり、志摩の本物の豊かな自然が、多くの市民により意識的に守られています。その守られた自然から産み出される安心安全な志摩市の農産物を買いたい、安心安全な海で採れるアオサや魚、素敵な真珠を買いたい、そんな志摩市に行ってみたい、住んでみたい。そう思ってもらえるようなまちづくり、それが「新しい里海創生によるまちづくり」です。こうした動きが海の環境保全と経済成長の両立をうたうブルーエコノミーの確立につながるものと信じます。
「新しい里海創生によるまちづくり」は、市民全員参加で、沿岸域の総合的管理を進め、行動を起こし、名実共に「新しい里海のまち・志摩」というイメージを定着させ、個人も市内事業者のみなさんも、この地域イメージを上手く活用していただき生活や事業の発展を図っていただくためのものです。産物はもちろん、景観も含めて、志摩市という地域そのものがブランドとなり経済振興につながるものです。
志摩市のこれからの発展と経済の振興は、いまや世界の本流になりつつあるブルーエコノミーという考え方に沿って、この「新しい里海のまち」を作り上げることができるかどうかにかかっています。みなさんにはこれからも志摩市の「新しい里海創生によるまちづくり」へのご理解とご支持をいただきますとともに、この取り組みに積極的にご参加いただきますようお願いいたします。(了)

第304号(2013.04.05発行)のその他の記事

ページトップ