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第28号(2001.10.05 発行)
第28号(2001.10.05 発行)

効率的で安全な東京湾を目指して

(社)東京湾海難防止協会理事長◆邊見正和

東京湾は世界でも例のないほど、多数の船舶がひしめき合いながら航行せざるを得ない海域である。港湾内の施設拡充がさらに進み、今後ますます東京湾を航行する船舶が増加することが予測される一方で、30年前に施行されたままの海上交通安全法を見直すなど、安全でより効率的な新しい海上交通体系の構築を早急に行う必要がある。

動き出した東京湾

東京湾を運航する船舶
東京湾を航行する船舶。安全かつ効率的な湾内の航行システム作りが望まれる。

東京湾横断道路が完成後、景気後退と歩調を合わせるかのように鳴りを潜めていた東京湾も、ここにきて、ようやく胎動の兆しが見えてきたようである。

例えば、湾内で計画されている主要なプロジェクトとして、東京湾ハイウェイ構想、横須賀ポートフロンティア計画、航空機発着増便を狙った東京国際空港(羽田)の沖合展開、首都圏第三空港建設、さらには東京湾臨海道路といずれはリンケージするであろう東京湾口道路等が検討されている。

特に海上交通に焦点を絞ると、湾内におけるバースの新設・改修がかなり目に付くようになった。工事中のものも含めて、南本牧国際海上コンテナターミナル、大井・東扇島・千葉中央埠頭等のコンテナターミナル、富津のLNGバース、横浜旅客船用大桟橋等、船舶の大型化や新しいニーズに呼応したバースの整備が目白押しの状態になっており、東京湾内において大型船の受け入れ態勢が着々と整えられている。このうち、南本牧バースでは347mの大型コンテナ船を受け入れるなど、一部はすでに稼動を始めているものもある。

海上交通安全対策と効率化

東京湾における海上交通をさらに効率化するためには、その大前提として安全問題を考えなければならない。ひとつの具体的な例として、長年の悲願でもあった第三海堡の撤去・中ノ瀬航路の浚渫が平成12年12月から8カ年計画で開始され、大型船の湾内通航環境が一段と改善されようとしている。

この他、湾内通航上の安全レベルを高めるため、ITを利用した航路標識の整備、船舶自動識別装置の装備とタイアップした東京湾海上交通センターの機能強化と航路管制の充実等が計画されている。しかし、東京湾の中には様々なボトルネックが存在していて、これだけでは安全な海上交通体系を形成することはできないであろう。

海上交通安全法 ※1が海上衝突予防法 ※2の特別法として施行されてから30年になる。当時としては、航行安全確保のために画期的役割を果たす法律であったことは間違いない。しかし、30年の間に船舶、交通環境、係留施設等が大きな変革を遂げ、いまや、見直すべき時機に来ていることは否めない。

例えば、海上交通安全法に示す航路出入り口部では、航路内では巨大船優先、航路外では衝突予防法の適用海域となって、一転、巨大船が避航船となってしまう。また、50m未満の小型船でも航路内航行が可能であるため、航路を航行中の大型船は、小型船に対してかなり気を遣うことになり、航路内での不安要因となる。航路内において漁船の操業が認められていることも、安全通行上の観点からは問題があるといえる。

こうしたことを解消し、より航行の効率性を高めていくためには、湾内はできるだけ切れ目のないロータリー式(環流型)の航路とし、航路内では、内側を高速帯、外側を低速帯の二つのレーンに分けるなどして、航路への出入りがスムーズに行えることができ、高速船はそれなりの速力で航走できるようにすべきである(図1参照)。

しかしながら、大型船や高速船の効率性・安全性を追求するだけでは、湾内の問題は解決しない。もしも、小型船や漁船が航路内での活動を制限されるとすれば、当然のこととして、適正な配慮がなされるべきである。それは、これらの船舶に対して、安心して活動のできる場を提供することであり、何らかの補償等で手当てをすることであろう。海は、あらゆる人にとって共生の場でなくてはならない。

巨大船に望まれる操縦性の向上

今まで述べてきたことは、船舶自体からみればすべて客体的事象であり、いわば、他力本願的事象である。東京湾のように世界でも稀な輻輳度の高い海域で安全に航海するためには、他人の力に頼るだけではなく、自助努力も必要である。多数の船舶がひしめき合いながら航行せざるを得ない海域で、船舶自体が安全性を高めるために要求されるものは操縦性の向上である。つまり、舵を切ったらすばやく方向が変わり、船の針路が短時間に安定するような性能アップが望まれるのである。

従来、船型がずんぐりしていて排水量が大きいためなかなか動き出さず、動き出したら容易に止まらない巨大船の操縦性の向上などというのはまったくの素人考えであり、いわば、タブーの領域であったともいえよう。しかし、コンピュータを用いた流体力学の進歩や、舵を含めた推進系の向上により、その領域に挑戦できる時が来ているのではないだろうか。

海上交通安全法制定時はタンカーが大型船の代名詞だったが、コンテナ船や客船も相当大型化し、しかも満載と貨物の少ない状態では、一口に大型船といっても全く別の範疇に入るほどの違いがあるはずである。もし仮に、何らかの方法でわずかでも操縦性能の向上が得られたとすれば、それは東京湾内を航行する大型船だけではなく、あらゆる海域を航行する大型船に適用することができ、大型船にとって、大きな福音となることは間違いないことであろう。

結び

東京湾をより効率的に、そして安全性を向上させるためには、多くの問題がある。あたかも高次の連立方程式を解くようなものであり、決して簡単に解決できることではない。しかし、東京都を始め、神奈川、千葉、埼玉という巨大な首都圏の機能を支えるため、ロジスティックスを担当している東京湾の果たすべき役割は極めて大きい。従来、各部門ごとに発展してきたものを、安全を基盤として、合理的、効率的な横のラインで結びなおしてみる必要がある。もう、その時機にきているものと思う。(了)

※1 海上交通安全法:東京湾、伊勢湾、瀬戸内など船舶が混雑する特定の海域において、航路を設け一方通航などを義務化している。

※2 海上衝突予防法:船舶交通の基本ルールを定めた法律

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