Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第282号(2012.05.05発行)

第282号(2012.05.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/前東京大学大学院理学系研究科長)◆山形俊男

◆開花が著しく遅れた桜花も既に散り、眩しい陽光の下で若葉が一斉に芽吹いている。新緑の季節ももうすぐそこである。東日本大震災から早くも一年余、今年の春ほど、初唐の詩人、劉廷芝の漢詩「古人無復洛城東、今人還対落花風、年年歳歳花相似、歳歳年年人不同」が心にしみた時は無かった。
◆大震災で大きな打撃を被った東日本沿岸域の復興に向けて、防災を含むインフラ面の整備に加えて、法制面の整備においても様々な努力がなされている。特に今年は海洋基本計画の改訂の時期にあたり、世界に範たる総合的沿岸域管理(Integrated Coastal Zone Management)の導入に向けて、各界が叡智を出し合うことが望まれている。
◆今号には、沿岸海域の管理における「里海」の概念の重要性を早い段階から提唱されてきた柳 哲雄氏に登場いただき、東日本における水産業の復興に向けた提言をいただいた。環境省は「里海」を「人間の手で陸域と沿岸域が一体的・総合的に管理されることにより、物質循環機能が適切に維持され、高い生産性と生物多様性の保全が図られるとともに、人々の暮らしや伝統文化と深く関わり、人と自然が共生する沿岸海域」と定義している。漁業という経済行為と環境保全という非経済行為を効果的に両立させるにはどのような体制が最善か、関係各界で充分に議論することが必要である。人と自然が共生するという根本的な部分を共有できるのであれば、それぞれの地域の暮らしや文化に根ざした多様な解があってよいのかもしれない。◆私たちの究極の目標はこの棲息可能な惑星にあって「良き生(well-being)」を実現することにある。地球科学者や生物学者にとっての究極の目標は変化・変動する地球を知り、そこで共進化した生命の神秘を解き明かすことにある。上田卓也氏は水の存在が地球の生命を育んだという定説に対して、むしろ有害な水を有用なものに変換するように進化してきたところに生命の本質があるとする。酸素についても同様の地球生命史がある。ともすれば極端に走りがちな昨今の風潮にも警鐘を鳴らすオピニオンである。
◆冨賀見栄一氏はソマリア沖に展開する海賊の脅威から商船を守る方策として、国鉄時代の司法警察権を持った鉄道公安職員に倣った方式の復活を提案する。民活と同時に、退役した経験豊かな海上自衛官や海上保安官の人材活用にも道を開くもので、傾聴に値する。私たちは様々な偏見や自縄自縛から自らを解き放ち、現実的な成熟国家の確立を目指すべきである。(山形)

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