Ocean Newsletter
第276号(2012.02.05発行)
- 東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻准教授◆加藤泰浩
- 環境省自然環境局自然環境計画課 サンゴ礁保全専門官◆尼子直輝
- 公益財団法人東京財団研究員、一般社団法人測位航法学会理事◆坂本規博
- ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男◆今、東京大学では、「秋入学」の話題でもちきりである。1月20日に「中間まとめ」のプレス発表があり、多くのマスメディアがトップニュースとして取り上げた。この動きは本ニューズレター250号にもご登場いただいた濱田純一総長の強いイニシャチブで始まったものである(https://www.spf.org//jp/news/201-250/250_3.html)。東京大学総長の発言がこれほどまでに大きな話題になったのは、茅 誠司総長が、学んだ知を統合し、教養人として社会の中で生かす「ちいさな親切」を提唱して以来、実に半世紀ぶりである。
◆いうまでもなく、国際社会では様々な分野でボーダーレス化が急速に進行中であり、大学においてはこれを担うグローバル人材の育成が重要な使命になっている。他者との交流を自在に展開するには、自らの考えを的確に発信し、他者の意見をしっかり受け止める力量を涵養することが最も重要であり、特に国際社会にあっては既に世界標準語化した英語の技量を磨く必要がある。わが国の社会が抱える多くの制約の中でどのように「秋入学」を実現してゆくのか、難問山積である。しかし、少子高齢化、経済の停滞、「村」社会の弊害などで、いわば鬱化している社会そのものに新風を吹き込むべく、象徴的な言葉でのろしを上げたものと理解したい。
◆今号の最初のオピニオンは加藤泰浩氏によるレアアース泥の発見という、とても明るい話題で飾っていただいた。現在の地球磁場は北極にS極で南極にN極であり、固定しているように見えるが、実際は過去360万年の間に11回も反転している。この磁場反転の痕跡は海底の岩盤に磁気テープのように残されているが、この研究目的で太平洋の広い範囲から採取されていたピストンコアの存在が今回の発見を導いた。世界に先駆ける海洋環境保全と海洋資源開発の共生プロジェクトとして大きく展開して欲しいものだ。
◆尼子直輝氏には生物多様性条約に基づく環境省の保全戦略についてご紹介いただいた。ここにおいても生態系保全と社会や産業における持続可能なサービスとの適切な舵取りが重要になってくる。海洋保護区の充実はその一つの解を与えるものとなろう。そして何よりも大切なのはステークホールダーである人々の意識の向上である。
◆坂本規博氏には着々と進行している日本版GPS衛星計画の海洋分野における活用可能性について議論していただいた。周辺の建物や地形の影響を受けない衛星サービスを実現するには、いつも天頂方向に衛星が存在するようにすればよい。赤道以外の地域で、複数運用することでこれをほぼ可能にするのが準天頂衛星である。米国が運用しているGPSは、その僅かな通信誤差が大気中の水蒸気のリモートセンシングを可能にして、1990年代にGPS気象学という新しい分野を生んだ。東日本大震災時に、いち早く外洋の津波をとらえたのもGPS潮位計であった。この情報が即座に報道されるシステムが整備されていたならば、多くの人命が失われずに済んだはずである。必要は発明の母である。一方で、新技術は意外な用途を開拓し、私たちの社会を豊かにする。日本版GPS計画が大きく花開くことを期待したい。(山形)
第276号(2012.02.05発行)のその他の記事
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- 編集後記 ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男