Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第267号(2011.09.20発行)

第267号(2011.09.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所・教授)◆秋道智彌

◆震災発生から半年あまりのお彼岸は9月23日。これまでに震災でお亡くなりになった方がたのご冥福をお祈りする催しが全国各地である。秋の味覚サンマは今年豊漁とのニュースが流れたのが8月末。東北地方の気仙沼、女川、大船渡の各漁港に水揚げされるサンマを格別の思いで振り返る漁師さんはおおい。海の情況は海域ごと、年ごとに一様ではなく変動する。サンマだけを例にとっても、毎年その動向に一喜一憂するのが海のくらしだ。ふつうは年単位で海の様子とその変化をみるわけだが、より長期あるいはもっときめ細かく海をながめる必要もある。
◆本号で(独)海洋研究開発機構の升本順夫さんは、福島第一原子力発電所からのセシウム137やヨウ素131の海洋拡散過程をシミュレーションした結果をもとに、提供されたデータにたいして現場からの反応がほとんどなかった点を憂慮されている。コンピュータによるシミュレーション情報を今後生かすためにも情報のリテラシーをめぐるユーザーとの意見交換がいかに重要であるかを提起されている。陸上における放射性物質の検知が執拗に繰り返されているのにたいして、単に海が人間の居場所ではないと言うだけで軽視されてはなるまい。海洋に拡散した放射性物質とともに、本誌261号で田辺信介さんが指摘されたように、環境ホルモンを通じた生物濃縮過程の動向も気になるところである。
◆原発由来の放射性物質の話はここ半年ほどにみられた現象であるが、戦後の高度経済成長期を経て顕著になった赤潮発生の動向は過去50年ほどのあいだのことである。とくに赤潮は瀬戸内海の海洋環境の劣化として顕在化した。その害を軽減するための方策は富栄養化の防止にほかならず、北海道大学大学院水産科学研究院の今井一郎さんは、赤潮対策に藻場やアマモ場の造成が不可欠との提案をされている。もとより、藻場やアマモ場を埋め立てて陸上中心の産業発展をもくろんだツケが赤潮につながったわけであり、皮肉というほかはない。藻場の造成は瀬戸内海沿岸の各自治体やNGOsがこれまでにも取り組んでおり、今井さんの提案が追い風となることは間違いない。
◆地球温暖化が海洋にあたえる影響については全球規模での観測を長期的におこなうことが不可欠であり、放射性物質や富栄養化による海洋環境の変化の話題とはスケールも時間的な枠組みもさらに大きくなる。プリンストン大学の真鍋淑郎さんは、自ら気候モデル研究に取り組んできた1950年代から長足の進歩を遂げた観測技術とその応用範囲について述懐し、地球の海についての複合的な観測態勢の強化を訴えておられる。今年のサンマ豊漁は喜ばしいことだし、東北の海を明るくする材料だが、海を見る時空間の広がりを柔軟に透視できる目をもつことができるよう一人ひとりが心がけたいものだ。(秋道)

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