Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第262号(2011.07.05発行)

第262号(2011.07.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

◆6月8日は世界海洋の日(World Oceans Day)である。海が人類社会にもたらす多くの恵みに感謝し、これを持続的に守るために1992年のリオ・サミットでカナダにより提案されたものである。2009年からは国連の記念日となった。東日本大震災では巨大津波が太平洋沿岸地域に壊滅的な打撃を与えたが、海そのものを恨む人はいなかった。希望は海とともにあるからである。来年は地球環境の保全に向けて大きな方向性を示したリオ・サミットから20年、記念すべき年であり、Rio+20に向けた準備がさまざまな分野で始まっている。持続可能な社会と私たちの良き生には健康な海の存在が不可欠であることは言うまでもない。わが国は大震災の教訓をしっかり受け止め、海と共に生きる、あらたな世界の扉を率先して開きたい。
◆今年の世界海洋の日には、哀しいニュースが私たち海洋学者の世界を巡った。南アフリカの著名な海洋学者であるヨハン・ルチェハーム博士が他界したのである。博士は東アフリカに沿って南下するアガラス海流がUターンする時に渦を南大西洋側に次々に放出するプロセスを詳細に調べた。この奇妙な現象は千年スケールの気候変動を生む世界の海の循環において重要な役割をする。博士とは80年代に国際会議でご一緒してから交流が続いていたが、アガラス海流と黒潮は力学的に兄弟のようなものであり、このことが双方に親近感をもたらしていたのかもしれない。博士は癌との長い闘病生活にも屈せず、最後まで活発な研究活動を続けてこられた。ご冥福をお祈りしたい。
◆今号の最初のオピニオンは長らくカナダの海洋学界を基盤にして活躍され、帰国後は北大で教鞭をとられた池田元美氏によるものである。東日本大震災後の海洋コミュニティの活動と今後の展開について紹介していただいた。海の汚染状況を正確に把握し、分析し、適切な対応を提言してゆくのは海洋学者の責務である。国内外の調査、研究機関が緊密に連携して、沿岸から外洋に至る監視、観測体制を長期にわたって維持してゆかねばならない。総合的な海洋調査を統括する機能を持つ組織が今ほど望まれている時はないといってよいのではないか。
◆田中要範氏には東日本大震災で大きな被害を受けた水産業の復興に向けた漁業協同組合の取り組みを紹介していただいた。造船業、漁業、加工業、流通業など多くの関連産業からなる水産業の復興には現場からの総合的な視点が不可欠であり、漁業協同組合がこれまでに培ってきた叡智への期待は大きい。
◆最後のオピニオンは塩田幸雄氏による小豆島からのメッセージである。ここでは陸の道と同じように海の道を重視する政策の必要性と都会と島の二地域居住を促進することによる島の復権が提案されている。古代ローマの上流階級はヴィラと呼ばれたセカンドハウスを持ち自然と親しんでいたという。ロシアではダーチャと呼ばれる簡易別荘で野菜作りなどを楽しみながら週末を過ごす人が多い。都市と地方の交流を活発にする地域活性化総合特区制度のモデル地区となった小豆島の実験結果が今から楽しみである。(山形)

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