Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第259号(2011.05.20発行)

第259号(2011.05.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所・教授)◆秋道智彌

◆海は残酷な死をもたらす存在。さもなければ、優しい母。いま、海に母の豊かさ、優しさを感じる人は少ないにちがいない。しかし、死の恐怖におびえてばかりではいられない。放送大学の來生 新さんは、連続3回にわたる東日本大震災に関連したオピニオンのくくりとして、わが国を囲む広大な排他的経済水域と大陸棚の管理について取り上げた。海底のプレート活動が津波の原因であったなどと説明を受けても、死にたいする恐怖のイメージが払しょくされるわけではない。だが、來生論は母なる海への思いをいまだからこそ新たにするべき一歩であると確信した。排他的経済水域の海底にあるレアメタルの鉱床が将来に向けて希望の星であること、波や海流、風、太陽光などのエネルギーを活用することへの可能性と期待は、原発事故を踏まえた現状でさらに大きく膨らんできたことは確実だろう。ただし、海の統合管理をめぐる法的措置を実現するための道のりはこの先けっして平坦ではない。それだけに、いまこそパラダイムシフトが求められているということを、一人一人が自問自答すべきなのだ。
◆海のもつ破壊力と豊饒性。海は人間の能力を超えた存在であり、しかも両義的な性格をもつ。それゆえ、心して海と向かい合うべきことをわれわれは今回、あらためて学んだ。この実感を、すべての日本人が共有したと果たしていえるだろうか。否である。風評被害、デマ。傷ついた心を逆なでするような、悪質な、あるいは無意識の偏見が蔓延している。被災者と被災しなかった人が共感するどころか、差別につながっている面が垣間見えるからだ。残酷な存在は人間社会にもあることを知るべきだろう。もちろん、日本各地だけでなく、世界中からの支援とメッセージが届けられたことをわれわれは知っている。
◆そのことを踏まえ、先だって天皇・皇后両陛下がいくつもの被災地の避難所で、人びとにかけられたお言葉へのやりとりにあったような、会話を通じたふれあいの重要性については強調しすぎることはあるまい。(独)海洋研究開発機構の市川 洋さんは、「海のサイエンスカフェ」の成果を提示されている。いま、海を語るカフェは被災地をはじめ全国で展開しているのではないかとさえ思えてくる。もちろん、紅茶やクッキーがなくとも、洒落た音楽が聞こえてこない場であっても、さまざまな話題と議論が静かなうねりとなって、人びとの心を癒し、豊かにすることがあればうれしいことだ。ワーク・トゥゲザー、一緒に汗を流そう。(秋道)

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