Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第254号(2011.03.05発行)

第254号(2011.03.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

◆日本海側の地域に豪雪をもたらした冬型の気圧配置が次第に緩み、この頃は月も朧に霞むようになった。自然に心が弾む春爛漫の季節ももうすぐである。しかし、国内も国外も政情の混乱には歯止めがかからない。チュニジアに始まって、エジプト、バーレーン、リビアなど中東イスラム圏諸国が大混乱に陥っている。これには小麦、トウモロコシ、大豆、砂糖などの食品価格の急騰が市民生活を直撃したことが引き金になったようだ。投機筋の動きも一因となっているらしいが、食品価格の世界的高騰は基本的には気候変動に伴う異常気象によるものである。特に小麦価格の急騰にはオーストラリアや中国における異常気象の影響が大きい。
◆今号には物流関係のオピニオンが二題揃った。まず片桐正彦氏に1カ月後に迫る神戸港埠頭公社の民営化について、その背景と今後の展望について解説していただいた。中国や韓国の港湾が著しく展開しはじめたところに、阪神・淡路大震災で壊滅的な打撃を受けたことにより、神戸港の国際物流における地盤沈下には著しいものがあった。しかし、大阪港と連携し、阪神港として国の国際コンテナ戦略港湾に選定されたことを契機に、国際競争力の復活を目指して、抜本的な機能強化と効率化が図られる見通しとなっている。一方、具 京模氏には日中韓の北東アジアにおける近海物流の政策の有り様についてオピニオンを展開していただいた。原料、部品調達から製造、流通、販売までの一貫した流れの中で域内貿易は活発化し、その動脈を担う物流の役割は日増しに増大している。三カ国が連携して、より円滑、かつ効率的な仕組みを導入し、更なる経済の活性化を図ることは北東アジアのみならず世界の経済発展にとり極めて重要である。一方で内航海運のカボタージュには国の安心、安全を保障する側面もあり、近海物流の市場開放の議論には複眼的な視点が必要であろう。西ヨーロッパとは異なり、政治体制の異なる国々から構成される北東アジアにおいてはこのことを忘れてはならない。
◆2007年に議員立法で成立した海洋基本法の根幹は母なる海を愛し、海に親しむことにあるといっても過言ではないであろう。この意味で海洋レクリエーションの興隆いかんは基本法の精神がわが国に定着したかどうかのバロメータでもある。内田正洋氏には愛好者が急増しているシーカヤックについて熱く語っていただいた。陸との繋がりを実感しながら沿岸に沿って手漕ぎで進む「海のバックパッキング」の魅力に引き付けられた読者も多いのではないだろうか。 (山形)

第254号(2011.03.05発行)のその他の記事

Page Top