Ocean Newsletter
第252号(2011.02.05発行)
- 東京海洋大学海洋政策文化学科准教授◆佐々木 剛
- (独)海洋研究開発機構客員研究員、東京大学特任教授◆鳥海光弘
- 東海大学名誉教授◆酒匂敏次
- ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男◆昨年末から強い冬型の気圧配置が続き、日本海側の地域は大雪に悩まされている。244号(10月5日発行)で注意を促した通りになった。今回のようにラニーニャ現象によるものとしては、古くは昭和38年の豪雪、最近では平成18年の豪雪がよく知られている。雪下ろしに伴う事故で高齢者が亡くなるケースが続出しているので、雪国の方々は注意して欲しい。オーストラリアやブラジルの洪水も予測どおりに発生したが(http://www.jamstec.go.jp/frcgc/research/d1/iod/)、どうしてこのように何カ月も前に未来の気候がわかるのか不思議に思う読者も多いかもしれない。これは天気予報に用いられる大気モデルと海洋予測(http://www.jamstec.go.jp/frcgc/jcope/cgi-bin/create-index.cgi?TYPE=JCOPE)に用いられる海洋モデルをスーパーコンピュータで結び付けた大気海洋結合大循環モデルによる近未来予測科学が急速に進歩したからである。この分野でわが国のグループは世界の最先端を走っている。10数年前に(旧)科学技術庁が地球変動の予測をめざして、地球シミュレータ計画とともに推進した、先見的な地球フロンティアプログラムの成功による。今後はこうした先端科学の成果をわかりやすい形で迅速に社会や産業界に伝達する「気候サービス」の仕組みを確立してゆく必要がある。
◆科学は社会とはかけ離れたところにある学究的なものであるという考え方がわが国では未だに根強い。しかし、物事のしくみや理(ことわり)を明らかにするのが科学であるとするならば、社会との距離と科学の性質には何の関係もない。むしろ現代社会は先端科学をますます必要としているといえるのではないだろうか。技術は文字通り社会や産業界に直接関係するものであるが、高度化した社会ほど科学と技術の間の敷居は低くなる。多くのノーベル賞受賞者の業績がまさにこれを裏付けているように思う。
◆本号では佐々木 剛氏に東京海洋大学の水圏環境リテラシー教育推進プログラムのめざすところを解説していただいた。水は溶媒として、ずば抜けた性質を示す。その良き流動性とあいまって、地球の物質循環のキープレーヤーである。森、川、海を水圏としてとらえ、環境と持続可能な社会や産業の問題を総合的に考えるプログラムの活動が広く展開してゆくことを期待したい。次いで、地質学者の鳥海光弘氏には46億年の地球史の視点から海洋学の魅力について寄稿していただいた。露出した地層に遠い過去の海の日々の記憶が刻まれていることがあるという。まるで古い時代に書かれた日記を読み解くようなときめきが文面から伝わってくる。酒匂敏次氏には海洋学者の立場から海洋国家日本の過去、現在、未来を俯瞰していただいた。海洋基本法の神髄は母なる海を愛し、親しむことにある。万葉集に海の歌が数多くみられるように、人と海の共生の証は歌となって後世に伝わってゆく。果して私たちはどのような歌を残すことができるだろうか。(山形)
第252号(2011.02.05発行)のその他の記事
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- 編集後記 ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男