Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第251号(2011.01.20発行)

第251号(2011.01.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆新しい年が明け、早や3週間。2011年、海をめぐるさまざまな問題がどのように展開するのか。とんでもないことやハラハラすること、うれしいことが巡ってくるにちがいない。それをただ待つだけではなく、準備を怠らずに心していたいものだ。
◆本号を読み終えて、3篇に共通するキーワードを挙げるとすれば、「つながり」あるいはリンケージ(連関ないし連環)であろうか。高知大学副学長の深見公雄さんは黒潮流域圏における総合的な学の体系を構築する必要性を提唱されている。森川海の連関については、最近方々で指摘がある。深見さんによると、その内容を実体化し、総合的な学として進めることが肝要という。黒潮流域圏の発想は斬新である。それだけに、琉球列島から、九州、四国、近畿、東海、関東までを包摂した黒潮流域圏の学的な「つながり」を実現することが「初夢」に終わってはなるまい。具体的な学的連携の方策が望まれる。
◆沖縄のサンゴ礁海域は実に多様な生態系から構成されている。ここには、いわゆるサンゴ礁だけでなく、マングローブ、干潟、海草藻場などの生態系がモザイク状に分布している。それらの生態系はバラバラに独立して存在するのではない。物質循環や生物の動態などを通じて相互に複雑な関係で結ばれており、全体としてサンゴ礁海域の生態系が成立している。しかも、山や森から河川経由でもたらされる栄養塩類や落ち葉(リッター)を通じて、陸域と沿岸域が結ばれている。以上のことを踏まえて、琉球大学の土屋 誠さんは熱帯・亜熱帯域の生態系を多様な系として捉える必要性を指摘されている。森から海に至る生態系の、その先にある多様な海の世界に目を向けるべきということだ。この例でも、つながりの重要性は明らかであろう。
◆一方、港湾と海運の発達するウォーター・フロントは、沿岸域における人間の複合的な世界が創出されてきた場である。港湾は、海と陸の接点として歴史的にも独自の発展を遂げてきた。ヨーロッパにおける港湾は中世以降から産業革命を経て、ハンブルグ、ブレーメン、英国のテムズ川河口におけるようにあたかも「生き物」のような存在として経済・金融・保険産業活動の中枢部分を形成してきた。大阪産業大学の宮下國生さんはこのことを述べたうえで、わが国の港湾と海運の世界がかつて海洋文化発信のたぐいまれな場であったことを再認識すべきとの主張を展開されている。宮下さんによると、日本はヨーロッパとは異なる独自の発展プロセスとビジネスモデルを醸成してきた。このことを踏まえて、今後の海洋政策に反映すべきということだ。阪神淡路大震災を乗り超えて復興した阪神地域のみならず、東京・横浜の港湾地域の多重な機能を生かす手立てが望まれる。中国の上海や韓国の仁川における貨物取扱量の急増をみるにつけ、かつてのハンザ同盟でさかえた北海沿岸域の港湾都市を思い起こす。新たな東アジア物流ネットワークの構築を日本発の海洋文化の拠点として進められないか。四国、沖縄、阪神からの提案に、新しい年にふさわしい希望に満ち満ちた息づかいを感じるのはわたしだけではあるまい。
◆なお、本号から編集委員会のメンバーが「日本が海洋国家になるための課題」について順番に寄稿することとなった。ご期待ください。(秋道)

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