Ocean Newsletter
第246号(2010.11.05発行)
- 金沢大学理工研究域環境デザイン学系教授、第3回海洋立国推進功労者表彰受賞◆石田啓(はじめ)
- 東京大学大学院理学系研究科 附属臨海実験所 所長、海洋基礎生物学研究推進センター センター長◆赤坂甲治
- 東京大学大学院人文社会系研究科 附属北海文化研究常呂実習施設 准教授◆熊木俊朗(としあき)
- ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男◆第7回「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム)」が10月3日から5日にかけて国立京都国際会館で開催された。科学技術の発展は人類に豊かさをもたらす一方で、環境や安全面、生命倫理面などで、さまざまな問題を引き起こし、それらの多くは対処するのに国際的な協調が必要になっている。このフォーラムは、尾身幸次氏の発案によるもので、科学技術の「光と影」を世界各国から集まる科学者のみならず、各国の科学技術関係大臣、政治家、企業家、行政官、ジャーナリスト等が一堂に会して議論する、きわめてユニークな場である。
◆今回は104の国・地域・機関から、複数のノーベル賞受賞者を含む約千人が参加し、活発な議論が行われた。第6回から海洋の持続可能性がテーマの一つに取り上げられるようになったが、これは安全・安心、安全保障、気候変動、環境保全、資源の開発・管理などの広範な分野で、海の問題が私たちの生活と切っても切れない関係にあることが、広く認識されるようになったからである。
◆今号では第三回海洋立国推進功労者として表彰された石田 啓氏が人と海の共生を可能にする科学技術の重要性を指摘している。これはまさにSTSフォーラムのテーマにも呼応するものである。STSフォーラムは人材育成も重視するが、赤坂甲治氏は海を身近にする海洋教育と、それを可能にする地域密着型の教材開発の重要性を指摘している。STSフォーラムで、たまたま隣席となったリチャード・ロバーツ博士は遺伝子組み換え技術とタンパク質を作りだす遺伝子が分断された形で存在していることを発見したことで1993年にノーベル生理学・医学賞を受賞した方であった。現在は可能性の大きな海洋微生物の研究にも力を注いでいるということである。日本財団の支援の下、東京大学で始まった海洋教育プロジェクトが全国で花開き、近い将来にロバーツ博士のように先端分野で活躍する人材が輩出されることを期待したい。
◆熊木俊朗氏は5世紀から12世紀にオホーツク海周辺に展開したオホーツク文化について解説している。北の海を自在に航海し、大陸と北海道、千島列島の間で交易に生きた海洋民族の姿が長期にわたる地道な調査により明らかになりつつある。私たちは奈良や京都から歴史を眺めることに慣れ過ぎているのかもしれない。このような研究の進展はわが国を含む北東アジアの歴史を複眼的に眺めることを可能にする。特に、隣国ロシアとの共同研究は、人為的な国境を越えて歴史や文化を見直し、両国の豊かな未来を展望する契機を与えることにもなるであろう。(山形)
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- 編集後記 ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男