Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第245号(2010.10.20発行)

第245号(2010.10.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆今年の7月に逝去された梅棹忠夫さん(初代、国立民族学博物館長)は、不肖私の先生である。梅棹さんは『文明の生態史観』をはじめとして、じつに広大な知の世界を踏破されたと思うが、その一つとなるキーワードが本誌で「海の博物館」館長の石原義剛さんがふれておられる「情報」である。情報産業、情報社会、博物館メディア論などの用語はいまでは当たり前のように使われているが、いずれも梅棹さんの造語だ。石原さんは梅棹さんにふれつつ、海の博物館からの情報発信の重要性を説いておられる。海の博物館ときけば、漁具や漁船など一昔前の古い道具類を展示する博物館と考えてしまうが、そのこと自体反省すべきことなのだ。周囲を海で囲まれていながら、日本は海洋国家と言えないのではないか。これも梅棹さんの発言にあった。
◆いま、東シナ海、南シナ海の領有をめぐって大きな動きがある。われわれ日本人としては、きちんとした海洋観、日本人と海とのかかわりの歴史を再度しっかりと押さえ直す必要がある。これまで、宮本常一、網野善彦、大林太良などのすぐれた海の研究者を輩出してきたが、そのことさえ忘れ去られるとしたら、日本人の知へのこだわりもたいしたことはないとさえおもってしまう。
◆東京大学の植松光夫さんは東アジアにおける海洋学のコンソーシアムづくりを提案されている。これまで自然科学の分野での20年にわたる情報の蓄積を踏まえて、さらに大きな輪として展開すべき期は熟したといえるだろう。後発の中国や韓国とも連携して日本が主導性を発揮すべきだ。その場合、海洋学の領域に是非とも文化や歴史を踏まえた分野を加えていただきたいとおもう。資源の管理や海に関する知恵についての研究や情報はずいぶんとある。東アジアの沿岸域における漁民や海民の暮らしの知恵をおなじ土俵で議論する場があってもよいはずだ。
◆「海の時代」はいい言葉だ。NPO海の森づくり推進協会の松田惠明さんは鹿児島大学時代から海の森づくりを手掛けられてこられた。磯焼けが各地で報告されるなか、藻場の再生、海中林の造成は沿岸生態系にパワーをもたらす重要な取り組みだ。かつて経済開発優先で海を台無しにした経験を生かすべきだし、同じ道を歩みつつある隣国への警鐘ともなる。名古屋で開催中のCOP10のなかでも里海論が大きく注目されている。海の森づくりは一見して地味な活動だが、確実に日本の海を守る先兵となるにちがいない。これをさらに進めて、わが国の海を守る運動を国際情報発信につなげることができないか。(秋道)

第245号(2010.10.20発行)のその他の記事

Page Top