Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第232号(2010.04.05発行)

第232号(2010.04.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

◆よく「暑さ寒さも彼岸まで」といわれる。これはひとりの人の活発な期間でならした季節の感覚といえるだろう。専門用語では季節を30年にわたり平均したものを気候値と呼ぶが、これに近いものである。しかし個々の年は必ずしもこの平均状態を示さない。年ごとの違い(経年変動という)がかなり大きいのである。今年も春彼岸は大荒れの日になった。地表や海面付近は既に春の日差しを受けて温まっているので、上空に寒気が入れば、大気は著しく不安定になる。こうなると対流が活発になり、大気の位置エネルギーが運動エネルギーに変換されるため、電車を止めてしまうほどの強風が吹き荒れる。2004年の春彼岸にも関東地方に雪が舞った。この年にも熱帯太平洋には巨大な「エルニーニョもどき」現象が発生し、偏西風を蛇行させていたことがわかっている。長期の観測データの蓄積から、温暖化に伴ってこうした気候の揺らぎが激しくなっていることも次第に明らかになってきた。
◆今号では、まず黒倉 壽氏がわが国の連続的な海洋観測、特に水産試験場の船舶による海洋現場調査が危機に瀕していることに警鐘を鳴らしている。すべての海洋政策は海をよく知ることに基礎を置く必要があり、しかも過去、現在、未来につながる連続性のなかで捉えられなければならない。マウナ・ロア山観測所の二酸化炭素濃度変化の時系列に小さな欠損があることをご存じだろうか。予算削減などの苦境を乗り越え、長期観測を可能にしてきた現場の研究者の苦労の跡をキーリング曲線に読み取ることも大切なのである。一方で、データは取得し、アーカイブしておくだけでは宝の持ち腐れとなる。適切に解析し、有効に活用すること、またその体制を充実させることも忘れてはいけない。
◆道田 豊氏は海洋基本法第9条に謳われた地方公共団体の責務を果たす試みとして、岩手県の活発な例を紹介している。産、官、学と市民社会の協働ネットワークにより、環境保全、生物資源や再生可能エネルギーの利用などの各分野で地域特性にみあった活動が全国に広がるならば、海洋基本法の精神がわが国に深く根付くことになる。こうした海洋立県をめざす動きの横の連携を支援する国の施策も望みたい。
◆森山利也氏はかつて東京湾の風物詩でもあった打瀬舟の復活と舟大工技術の伝承をめざす活動を紹介している。藻場と江戸前漁の復活、森・川・海の持続的な発展などを統合して捉える氏のオピニオンを読んで、帆走する打瀬舟の美しい姿は人と海が共生するシンボルなのだということがわかった。 (山形)

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