Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第231号(2010.03.20発行)

第231号(2010.03.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆地政学=Geo-politicsはスウェーデンの政治地理学者ルドルフ・クジェレンの造語で、戦前、ナチズムの拡張主義の思想的背景となった。本誌で国際日本文化研究センターの安田喜憲さんがいまわしいと評した意味がそこにある。だが、21世紀の今日、日本を取り巻く国際情勢は1930 年代とはまるで違っている。冷戦が終焉し、ペレストロイカ以降に社会主義体制が崩壊したとはいえ、中国の急速な発展、200海里排他的経済水域におけるエネルギー・資源に関する利権争いや北朝鮮によるミサイル発射、マラッカ・シンガポール海峡域における安全保障など、国家間のみならずグローバル時代の海洋秩序をめぐる新たな火種が渦巻いている。地政学的な取り組みが必要と説く安田さんの論は、ナチズムの復活を肯定するものではけっしてない。
◆対馬にはとんとご無沙汰しているが、国境の島の変貌は想像に難くない。日本国内の水さえも他国の企業によって買い取られるご時世である。日本が輸入する牛肉やトウモロコシは、それを生産するのに使用された水の量に換算すると、日本が世界一の水輸入国であることもいまや広く周知されるようになった。海を超えた利権の獲得、バーチャルな形での貿易の不均衡などの問題は、地政学自体が新たな局面を迎えていることを否が応でも認めざるを得ないのではないか。
◆日本海の島々や沿岸各地に漂着するゴミは招かれざる存在であり、アジア的な広がりでゴミ問題を考えることもいまや常識となっている。石井忠さんが代表の漂着物学会は、その名前からしてもユニークな学会である。たいへん多面的な活動を全国的に展開されておられる。私も偶然、鳥羽大会(2003 年)に参加した方々に「海の博物館」でお会いしたことを覚えている。漂着物は異国からのメッセージを運ぶので、わくわくする面があるし、ゴミ拾いを通じたボランティア活動や環境学習に資することも十分理解できる。しかしゴミはゴミであり、海洋汚染の指標としての意味がとても大きい。この面での啓発活動を今後ともに進めて頂けると、地政学の上からも有意義ではないかと考える次第である。
◆2010年2月末に発生したチリ地震による被災者には、少し前のハイチ大地震による多くの犠牲者にたいしてとともに、お悔やみとお見舞いを申し上げたい。地震による津波情報について、テレビに見入りながら全国各地の漁港や港の様子をこれほど一度に見たことはなかった。同時に、漁港の整備や環境に配慮した活動がそれぞれの地域でどれだけ進められているのか、気になった。(財)港湾空間高度化環境研究センターの細川恭史さんによる東京湾の取り組みはその先端を担うものだろう。日本中の港湾で総合的な管理が同じレベルで実現しているとは思わないが、それこそ「備えあれば、憂いなし」である。防災と環境に配慮した管理の取り組みはますますその重みを増すに違いない。 (秋道)

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