Ocean Newsletter
第230号(2010.03.05発行)
- 東北公益文科大学 准教授◆呉(ご)尚浩
- (独)水産総合研究センター遠洋水産研究所 客員研究員◆松村皐月
- 水中リポーター&ライター◆須賀潮美
- ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男◆雨水の節気が過ぎて、沈丁花の蕾が急に膨らんで来たようだ。沈香の香りにも似るという、その香気が街中に漂うのももうじきである。ところで昨年から熱帯太平洋にはエルニーニョ現象が起きているといわれる。この現象が起きるとその海上に立つ巨大な積乱雲にあたる風が大気中に波を起こし、それが中高緯度に渦となって伝播してジェットストリームを蛇行させる。このため日本付近では季節風が和らいで暖冬になることがわかっている。シミュレーション実験でも暖冬を予測していた(http://www.jamstec.go.jp/frsgc/research/d1/iod/)。しかし、意外なことに、この冬は東日本から北日本にかけては低温気味であった。日本海側では大雪に見舞われた地域も多い。
◆今回の熱帯太平洋の現象では日付変更線付近に海面水温の高温異常があり、東太平洋にはむしろ低温異常が見られる。これはエルニーニョ現象とは明らかに違っているので、エルニーニョ現象というよりはエルニーニョもどき現象と呼ぶべきではないかと考えている。最近の研究によれば、この現象が起きると日本付近は比較的厳しい冬になる傾向がある。エルニーニョ現象もエルニーニョもどき現象もジェットストリームの蛇行を引き起こして高緯度の冷気と低緯度の暖気の混合を活発化するものであるが、海面水温異常が起きる場所が違うために、冷気や暖気の流れ込む場所が経度方向に微妙にずれるようだ。北米東部の厳冬と大雪、冬季オリンピックの開催地バンクーバー周辺地域の異常高温も熱帯の海で進行している異常現象に密接に関係しているのである。
◆さて、今号では呉 尚浩氏に「海岸漂着物処理推進法」の成立までの経緯と海ごみ問題が総合的な沿岸域管理に果たす役割について解説していただいた。地域レベルのNPO活動と交流の輪が公共団体との協働により、国レベルの活動にまで広がり、超党派の議員立法で成立した同法は環境法整備の鑑ともいえるものであろう。
◆海洋基本法に続いて宇宙基本法が制定された今、海洋からの視点と宇宙からの視点の融合がさまざまな分野で強く望まれている。衛星による海面水温情報を早い段階から活用しているのは漁業の分野である。松村皐月氏は衛星を利用した持続的な管理漁業の実現に向けて研究者、漁業関係者、政府の第三者が協働することの重要性を指摘している。
◆これまでさまざまな場で紹介されて来たように、海洋基本法の精神は海を知り、護り、持続的に活用してゆくことにある。私たちのすべての営みは真の姿を知ることから始まると言ってよいだろう。水中レポーターとしてテレビやジャーナルなどを通して、海中の世界を広く社会に伝達するのに貢献してこられた須賀潮美氏の美しい描写から、わが国周辺に広がる豊饒の海の姿を知っていただければと思う。 (山形)
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