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オーシャンニューズレター

第227号(2010.01.20発行)

第227号(2010.01.20 発行)

子供マリンベスト・プロジェクトについて

[KEYWORDS] 海難防止/ライフジャケット/マリンベスト
海上保安庁第五管区海上保安本部警備救難部救難課救難業務係長◆西田昭一

クルージングや海水浴など様々なマリンレジャーが盛んになれば、これに伴い水の事故も増えてくる傾向にある。第五管区海上保安本部では、このような痛ましい事故が起こらないよう、また一人でも多くの命が助かるよう、ライフジャケット着用推進にかかる様々な施策に取り組んでいる。

はじめに

第五管区※海上保安本部の管轄海域は、海運、漁業が盛んで船の交通量が多く、風光明媚なレジャースポットが多数点在しています。レジャーシーズンともなれば、クルージングや海水浴など様々なマリンレジャーが盛んに行われ、これに伴い事故も増えてくる傾向にあります。
平成12年7月には、明石海峡にてプレジャーボートでクルージングを愉しんでいた家族5人(お父さん(当時37歳)、お母さん(当時32歳)、長女(当時8歳)、長男(当時6歳)、次男(当時3歳))のうち、長男が海中に転落し、長男を助けようと海に飛び込んだお父さん、お母さんも現場の急潮流により流されてしまうという事故が発生しています。
船内に取り残された二人のうち、長女が、お父さんが操船していたのを見様見真似で、近くの港まで操船し、救助されました。しかしながら、海に流された3人の内、両親は死亡、長男は行方不明のままという大変に痛ましい結果となりました。
このプレジャーボート船内には、ライフジャケット(救命胴衣)が備え置かれておりましたので、もしも3人がライフジャケットを着用していれば、助かった可能性は非常に高かったと考えられます。
この事故を契機に、第五管区海上保安本部では、このような痛ましい事故が起こらないよう、また一人でも多くの命が助かるよう、ライフジャケット着用推進にかかる様々な施策に取り組んでいるところです。

第五管区海上保安本部が抱える現状と取り組み

平成20年の第五管区海上保安本部管内の現状は、海難または船舶からの海中転落者による死亡・行方不明者数が26人で前年比8人増と大幅に増加しており、死亡・行方不明者のうち18人がライフジャケット未着用でした。また、岸壁や海岸で釣り中に海に転落する事故者が53名発生しており、内ライフジャケット着用率はわずか29%で、死亡・行方不明者数は19人となっています。
ライフジャケットの着用が浸透しているとは、なかなか言い難い状況です。
当管区では、海上における死者・行方不明者を減少させるため、平成19年末から、ライフジャケット着用率の一層の向上を図るため、ライフジャケット着用推進プロジェクト(通称「プロジェクトL」)を展開しています。同プロジェクトでは、モデルマリーナ等の指定や小・中学校、幼稚園への訪問指導等を通じて、『ライフジャケットの常時着用』のみならず『海上保安庁緊急電話118番通報の有効活用』、『連絡手段の確保(携帯電話の防水パックによる保護等)』を基本3原則として「自己救命策確保」の啓発活動を進めています。特に、子供の頃からライフジャケットを着用する習慣が重要と考え、幼児、児童などを対象として着用体験を含む講習会を行い、夏季シーズン前を中心に海辺でのライフジャケット着用の呼びかけを行っています。
また、関係団体の協力を得て、啓発活動などにも努めています。具体的には、ライフジャケット製造メーカーや釣具メーカーのご協力をいただき、「海のもしもは、118番」の海上保安庁緊急電話番号のキャッチコピーを取扱説明書の裏面や商品タグ等に表示してもらい、「118番通報」の周知活動を行っています。特に、(財)海上保安協会神戸地方本部は、私たちの活動の趣旨を理解していただき、関係業者と協力して、子供用マリンベストを開発していただきました。

マリンベスト
マリンベスト
マリンベスト

マリンベスト着用率は子供の頃から着用する習慣をつけることで、大きな効果があるものと期待される。
●問い合わせ先:(財)海上保安協会神戸地方本部
(電話078-391-6556 内線2958)
価格は900円(税込)。

マリンベストの開発

ここで、(財)海上保安協会神戸地方本部が開発したマリンベストを紹介したいと思います。ライフジャケットには、船舶等型式承認規則に基づく型式承認を受けているものと受けていないものがあります。型式承認を受けるためには、一定の浮力の他、反射板やホイッスルの有無等の条件に適合していることが必要です。
今回開発した子供用ライフジャケットについても、できれば型式承認を受けていることが望ましいのですが、まずは普及させることを優先に考えて、同等の浮力を有するものであれば型式承認にこだわらず、価格を抑えて手軽に入手できることを目指し、子供が着用したくなるような可愛いものとすることの3点を基本理念として開発を進めるとともに、検定品と誤認させないように名称も「マリンベスト」とすることとしたとのことです。
完成したマリンベストは次のとおり基本理念を満足するものとなり、さらに子供の体格に備え、S・M・Lの3種類を準備していただきました。
・浮力については5kgを採用し、子供用としては十分なものとなりました。
・価格にお手頃感のある、千円以下に抑えることができました。
・子供に人気のある海上保安庁キャラクター「うみまる・うーみん」のイラストをプリントすることで、子供にも受け入れられやすい可愛いものとなりました。
ただし、このマリンベストについては、検査を受けていないため、プレジャーボートなどの法定備品としては認められないものなので注意が必要です。

普及に向けて

前述のとおり、子供の頃から着用する習慣を身に着けていただくことは、着用率向上に大きな効果があるものと期待されることから、(財)海上保安協会神戸地方本部では、
「マリンベストは、子供の命を守る 海のシートベルト。」
をキャッチコピーとして掲げて、特に子供の着用率向上に向けた啓発活動に取り組んでいただいております。また、第五管区海上保安本部としても、(財)海上保安協会神戸地方本部と連携しつつ、各海上保安部等での事故防止の呼びかけや各種イベントの際に、体験着用を含めながら常時着用の呼びかけを行っており、その輪は徐々に広がってきていると感じております。
今後とも引き続き、(財)海上保安協会神戸地方本部や関係団体と連携して、ライフジャケットの着用率の向上を目指して努力していきます。(了)

※  管区=海上保安庁の地方支分部局として、11の管区海上保安本部が設置されている。第五管区は神戸市に本部を置き、滋賀県、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、徳島県、高知県の区域(陸地)、沿岸水域およびその沖合い水域が担当となっている。http://www.kaiho.mlit.go.jp/syoukai/kanku/index.htm

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