Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第227号(2010.01.20発行)

第227号(2010.01.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆年末にNHKの番組『坂の上の雲』を見た。ドラマとはいえ、当時の写真や画像に迫力を感じた。19世紀から20世紀にかけての時代、世界の列強は覇権をめぐって戦争を繰り返していた。海戦で用いられた戦艦の用材として、さまざまな樹種が用いられたことを東京大学大学院の山本史郎さんによる戦艦ヴィクトリーの話から教わった。乗組員達が過酷な作業の中で、ビールとラム酒でそのつらさを紛らわしたこと、敵の砲弾によって戦艦の用材が炸裂して、それが凶器となって船員の生命を奪ったことも知った。19世紀の中葉、米国のペリー提督が日本に開国を迫った訳は、捕鯨船の給水、薪の補給、乗組員の休養が大きな目的であったことはよく知られている。捕鯨にせよ海軍にせよ、1~2年にも渡る当時の船上生活はたいへんなものであったかと想像する。ならばさらに昔はどうであったのか。興味は尽きない。
◆飛行機が離陸する直前、ライフジャケットについての説明がかならずあるが、旅客船ではそれほど徹底して説明されるのか自分の経験ではあまりよく覚えていない。海難事故で、ライフジャケットを着用していれば助かったという場合がよくある。昨年の夏に北海道と東北で調査を行った。場所は海ではなく天塩川と小川原湖であったが、ライフジャケットの着用を義務づけられた。着用していると船上での動きが鈍くなるが、安心は何事にも代え難い。海上保安庁の西田昭一さんは過去の痛ましい事故をふまえ、とくに子供向けのマリンベストの普及活動を推進されておられる。まさかと気づいてからでは時すでに遅しとの教訓は海難事故にかぎらないことがらだが、幼い子供の生命を預かる父母だけでなく社会全体がこうした活動に注意を向けることも肝要ではないか。
◆京都大学の白山義久さんは200億円に達する巨費を投じた「海洋生物のセンサス」事業に関わるなかで、昨今の研究成果の社会還元の必要性に言及されている。アウトリーチはあらゆる研究面で検討されるべき課題であり、情報の公開と成果の還元は税金や寄付金を使った研究であれば、当然ということになる。日本の研究者がすべて悪いということにはならないとおもうし、昨年末の仕分け作業の妥当性は今後検証されることになるのだろう。『オーシャンズ』という映画が一般公開されるという。この映画が今年、世界的な話題となることを願わずにはおれない。 (秋道)

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