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第222号(2009.11.05発行)

第222号(2009.11.05 発行)

海上自衛隊の新たな運用構想と22DDH

[KEYWORDS] 海洋安全保障/部隊運用構想/新型航空機運用護衛艦
元自衛艦隊司令官◆山崎 眞

現在、海上自衛隊は、インド洋対テロ活動に加え、ソマリア海域における海賊対処活動に参加しているが、現防衛大綱で削減された艦艇と作戦機の中から兵力を派出しており、防衛任務や訓練・演習との間で部隊の遣り繰りをしなければならない厳しい状況となっている。
安全保障環境の変化に対応した新しい海上自衛隊の運用構想を期待したい。

現防衛大綱の特徴

現防衛大綱(16大綱)は平成16年12月に閣議決定されたものであるが、本大綱の安全保障環境の特徴は、9.11テロに見られるような国際テロ組織などの非国家主体を主な脅威とし、これに加えて大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散などの不安定要因の進展を大きくとり上げたことである。本大綱では、これを「新たな脅威や多様な事態」と名づけ、グローバルな脅威に実効的に対応することを主眼とした。防衛力の整備については、北朝鮮の弾道ミサイルの開発・配備等を重大な防衛上の脅威ととらえ弾道ミサイル防衛能力の整備に重点を置く一方、本格的な侵略事態に備えた従来の装備等を冷戦型の装備であるとして抜本的な見直しと縮減が図られた。海上自衛隊については、伝統的に重視されてきた対潜戦能力が冷戦型として縮減された。この結果、本大綱期間中において護衛艦と作戦機の数がそれぞれ約12%カットされることとなった。

現防衛大綱制定後における安全保障環境の変化

16大綱制定以後、世界、特に東アジアの安全保障環境は急激に変化した。最も大きな変化は中国の海軍力の急速な近代化・増強である。皮肉にも、対潜戦能力の削減方針を決めた16大綱制定の時期以後、中国海軍の新型潜水艦が急激に増強され平成18年末までの2年間に約2倍の隻数を数えるに至った。その他、新型水上艦艇や攻撃機の増勢も著しい。このような中国の海洋強国建設方針により、その海洋拒否能力※1は第1列島線(日本列島―台湾―フィリピン)から第2列島線(日本―グアム―ニューギニア)へと拡大しつつある。平成16年11月、漢(ハン)級原子力潜水艦※2がグアム島を一周し、青島への帰途わが国の領海を侵犯した事実もある。
16大綱において本来任務とされた国際平和協力活動も意外な方向へ伸展した。すでに実施されていたインド洋対テロ活動に加え、本年3月からはソマリア海域の海賊対処活動に参加することになった。本年6月にはP-3C(哨戒機)が初めて国際協力で海外へ派遣され、7月に自衛官の権限につき新たな規定を定めた「海賊処罰・対処法」が施行された。現在海上自衛隊は、削減された艦艇等の中から兵力を派出し遠隔地において継続的な活動を求められ、防衛任務や訓練・演習との間で部隊の遣り繰りをしなければならない厳しい状況となっている。

次期防衛大綱以後における部隊運用構想

16DDH「ひゅうが」
16DDH「ひゅうが」

現在、防衛省においては16大綱の見直しと、新防衛大綱(21大綱)および次期中期防衛力整備計画(22中期防)の作成が着々と進められているようである。これらの内容はまだ明らかにされていないが、前述の軍事情勢等に鑑み、海上自衛隊については日本、グアム島、台湾で囲まれる海域における継続的な広域作戦情報の把握のためのISR(Intelligence, surveillance, reconnaissance 情報・監視・偵察)機能とASW(anti-submarine warfare 対潜水艦戦)能力の融合、強化、拡充が重視されるものと期待される。
ポスト4次防(昭和52~54年度)以降、海上自衛隊の護衛艦部隊の編成の基本は、1個護衛隊群8艦8機体制である。もっとも、これは対潜戦における奏功率計算に基づいて弾き出された予算要求上の理論編成であり、必ずしもこの編成で実際の運用をするとは限らない。事実、これまでの実任務においては、この通りにはならなかった。インド洋における活動では、4艦5~6機、2艦3~4機あるいは1艦2機で行われ、海賊対処は2艦4機、弾道ミサイル防衛即時待機は2艦1機、国際緊急援助活動は2艦と哨戒ヘリコプターおよび陸自CH-47ヘリ数機で行われるなど、任務に応じ護衛艦の隻数とヘリの機数がパッケージ化されている。また、本年3月に就役した16DDH(ヘリコプター搭載護衛艦)「ひゅうが」※3は最大、作戦ヘリ6機、陸自大型ヘリ1機を同時搭載可能であり、「ひゅうが」が加わると護衛隊群の編成は8艦12機となるが、これを8艦12機体制とは呼ばない。今後は任務に応じた最適数のパッケージとする方法がとられる。「ひゅうが」は空母のような形状をしているが、あくまでも護衛艦の範疇で設計された艦であり、武器の装備も砲を除き護衛艦の武器体系とほぼ同等である。したがって、この艦は潜水艦潜在海面へも侵入することができる。

22DDHはどのような艦になるか

22DDHは、次期防(22中期防)で50DDH「しらね」の代替艦として建造予定の艦である。前述の「ひゅうが」を含め海上自衛隊はDDHを4隻保有している。DDHは護衛隊群の航空機運用の中枢艦(多数の航空機の搭載、航空機の管制・整備等の実施)になると同時に、部隊の指揮官(統合作戦では統合部隊の各指揮官)が乗艦し部隊全体を指揮するための指揮中枢艦となる。次期防においてもDDHの任務は基本的に同じであるが、運用形態としては、もはや8艦8機体制に囚われない新機軸の艦となるであろう。航空機は、新たな対潜戦等を実施するうえで必要な機数を搭載することになる。もちろん、国際緊急救助活動等の新たな要求に対応するため、同時に多数のヘリコプターを運用する事態にも備えた艦にしなければならない。したがって、22DDHは長さ約250メートル、基準排水量約20,000トン程度の大きさになるであろう。このような大きな艦は、「ひゅうが」のように自ら対潜戦を実施するには無理がある。新たに整備されるISR機能の情報にもとづき、自らは対潜戦闘を実施せず、部隊として敵潜水艦を封殺し制海を確保する。武装も自艦をミサイル、魚雷等から防護するための近接個艦防御能力に限られる。したがって、22DDHの近辺には対空、対ミサイル、対潜、対水上防護のため護衛艦数隻が常に随伴することが必要である。つまり、米英海軍の空母と同様な運用形態となる。

将来への備え

22DDHは約40年間使用する艦である。この間には様々な予測できない事態が生起することが考えられる。昭和50年にDDH「しらね」が計画された時、今日のような安全保障環境を誰が予測し得たであろうか。22DDHは将来の様々な事態の変化にも柔軟に対応できるだけの余裕を持った艦でなければならない。将来所要のための改造の余裕を十分に持たせるのが艦艇建造の常識である。このためにも、艦内諸装備のシステム設計は、いわゆるOA(オープン・アーキテクチャー)方式とし、将来運用上要求されるシステム改善が容易にできるようにしなければならない。これらの手立てにより、将来の作戦環境や搭載航空機を含む装備、戦術の変化に柔軟に対応でき、かつライフサイクルコストの低減が期待できる新世代の艦が生まれるのである。(了)

●   本稿内容は2009年8月15日執筆時のものである。
※1  海洋拒否能力(Sea Denial Ability)=周辺海域における敵の介入を拒否する能力。
※2  漢級原子力潜水艦=中国海軍の攻撃型原潜。なお「漢」とはNATOが割り振ったコードネームであり、中国では091型または長征1号級と呼称する。青島に配備され、現在稼働するのは2隻。
※3 16DDH「ひゅうが」=海上自衛隊最大の護衛艦。「ひゅうが」は平成16年(2004年)度予算で建造されたヘリコプター搭載護衛艦(DDH)であるため16DDHと呼ばれる。建造期間は、平成16年4月から平成21年3月までの5年間。

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